後遺障害の等級認定に対する不服申立て方法

第0 目次

第1 後遺障害の等級認定に関する説明資料
第2 後遺障害の等級認定に対する異議申立て
第3 一般財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構

*0 後遺障害の異議申立手続き 慈友行政書士事務所HP「神経症状の異議申立の立証責任と方法」が参考になります。
*1 画像診断とは,体の外から診るだけでは分からない体内の様子や病気(腫瘍、梗塞、動脈瘤等)を画像にして,異常がないかどうかを診断する医療技術をいい,MRI検査,CT検査,超音波検査(エコー検査)等が用いられます(AIC八重洲クリニックHP「画像診断とは」参照)。
*2 例えば,AIC八重洲クリニック(東京都中央区日本橋)の画像診断を受けるためには,主治医の紹介状又は専門外来の受診が必要みたいです(AIC八重洲クリニックHP「検査を希望される方,検討されている方へ」参照)。
*3 メディカルリサーチ株式会社「画像鑑定」は,CR(コンピューターX線撮影)(いわゆるレントゲン撮影),CT(コンピューター断層撮影),MRI(磁気共鳴画像撮影)及びPET(陽電子放射断層撮影)について,撮影画像付きで説明しています。
*4 14級を含む後遺障害等級の認定率は,約4.69%(平成26年度)→約4.67%(平成27年度)→約4.55%(平成28年度)という風に推移しています(「損害保険料率算出機構による後遺障害等級の認定」参照)。
*5 自動車総合安全情報HP自賠責保険ポータルサイト「支払に疑問,不服がある場合には」が載っています。
*6 にわ法律事務所HP「平成29年半ばから、自賠責での後遺障害等級認定が厳しくなったようです」,及び「調査事務所取付回答書類が開示されるようになりました」が載っています。
*7 「自賠責保険後遺障害診断書」「神経学的所見の推移について」及び「頚椎捻挫・腰椎捻挫の症状の推移について」を掲載しています。
*8 交通事故に関する赤い本講演録2010年・5頁ないし24頁に「後遺障害と消滅時効・除斥期間について」が載っています。
自賠責保険後遺障害診断書1/2
自賠責保険後遺障害診断書2/2
神経学的所見の推移について
頚椎捻挫・腰椎捻挫の症状の推移について

第1 後遺障害の等級認定に関する説明資料

1 後遺障害の等級認定結果が出た場合,①後遺障害等級の有無,②認定された後遺障害の等級及び③認定理由が書面で開示されます。

2(1) 自賠責保険会社に対して書面で請求すれば,以下の書類をくれます(自動車損害賠償保障法16条の5・支払適正化措置省令7条参照)。
① 後遺障害事案整理票 
・ (a)初診時の傷病名,(b)初期の症状及び態様,(c)治療経過,(d)傷病名,(e)既存障害,(f)自覚症状,(g)他覚的所見・検査結果等が記載されている書類です。
   後遺障害診断書を提出した事案であれば,後遺障害に該当しない場合であっても作成されています。
・ 慈友行政書士事務所HPの「後遺障害事案整理票について」に,後遺障害事案整理票の書式が載っています。
② 損害の細目及びその積算根拠を記載した書面
・ 治療費,通院費,文書料,休業損害,慰謝料という損害項目ごとの支払金額及びその内容等が記載されています書類です。
   自賠責保険からの支払額が,自賠責保険の限度額(例えば,傷害部分は120万円)に満たない場合に取り寄せる実益があります。
(2) 私の経験では,自賠責保険診断書を付けずに医療機関の領収書だけを提出した通院期間については,後遺障害事案整理票に記載されませんでした。

第2 後遺障害の等級認定に対する異議申立て

1 総論
(1) 後遺障害の等級認定に対して不服がある場合,異議申立てをすることができますところ,その手続は以下のとおりです,
① 被害者請求の場合,被害者が直接,自賠責保険会社に対して異議申立書を提出し,自賠責保険会社が損害保険料率算出機構に対して再検討の依頼をすることとなります。
② 事前認定(一括払事案)の場合,被害者が任意保険会社に対して異議申立てを行い,任意保険会社が損害保険料率算出機構に対して事前認定に対する再認定の依頼をすることとなります。
(2) 異議申立てをした場合,損害保険料率算出機構は,地区本部又は本部に設けられた審査会で再検討を行います。
(3) 事前認定に対して異議申立てをする場合,被害者請求への切替となりますから,自賠責保険請求書を提出する必要があります(「自賠責保険の被害者請求及び加害者請求」参照)。
 
2 損害保険料率算出機構の審査会
(1)   審査会としては,有無責審査会及び後遺障害審査会があります。
(2)   有無責審査会は,②自賠法3条ただし書に基づく免責の成否,②重過失減額の当否といった,保有者の責任発生の有無が問題となる事案について判断を行います。
(3)   後遺障害審査会は,①事故後に残存した後遺障害と事故との因果関係の有無,②障害の存否・程度の評価等について判断を行います。
 
3 異議申立てにおける添付資料
(1)   異議申立てをする場合,認定理由の不合理な点について具体的に反論する必要があるとともに,以下のような新たな資料をなるべく添付することが望ましいといわれています。
① 主治医の意見書
② 地域の中核的病院で医療水準が高度であると評価されている医療機関での専門医による新たな後遺障害診断書
③ 新たに直近で再検査を受けた各種検査の結果
④ 事故の衝撃の程度・負傷の程度が疑われていると推測される場合,交通事故の刑事記録
(2) 現実問題として,①については,後遺障害診断書に記載した以上のことはまず書いてくれません。
   ②については,交通事故直後から診察しているわけではないため,交通事故との因果関係を記載してもらうことは非常に難しいです。
   ③については,交通事故が発生して長時間が経過していることが通常ですから,検査結果と交通事故との因果関係を争われる可能性が高いです。
   ④については,加害者が起訴されていない場合,原則として実況見分調書しか入手できないところ,実況見分調書だけで事故の衝撃の程度等に関する損害保険料率算出機構の認定を覆すことは難しいです。
(3) 私の経験では,神経症状に関する後遺障害の認定が非該当となった場合,異議申立てにより後遺障害等級14級の認定を獲得するための証拠は,症状固定後も通院を続けていたことを示す治療費の領収書であることが多いです。
(4) 異議申立てに際しては,①事故の後遺障害で困っていること,②痛みはどのようなときに,どこが痛むか,③今でもしびれることがあるか,④その他日常生活に支障を来すこと,⑤症状固定後の通院に関する事情を説明するといいと思います。
(5) 異議申立てをする場合,後遺障害診断書を改めて作成する必要はありません。
 
4 消滅時効を中断しておく必要があること
   ①後遺障害の等級認定に対する異議申立ては,自賠責保険に関する被害者請求の消滅時効を中断する効力を有しませんし,②自賠責保険に関する被害者請求の消滅時効が完成した場合,後遺障害の等級認定に対する異議申立てができなくなります。
    そのため,異議申立ての手続中に,任意保険会社による最後の支払日から2年(平成22年3月31日以前の交通事故)又は3年(平成22年4月1日以後の交通事故)が経過する可能性がある場合,所定の書式の時効中断申請書を自賠責保険会社に提出し,もって,消滅時効を中断しておく必要があります。

第3 一般財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構

1 総論
(1) 異議申立ての結果に対して不服がある場合,損害賠償請求訴訟を提起した上で裁判所の判断を仰ぐことができます。
   ただし,平成14年4月1日に設立された一般財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構(自賠法23条の5参照)の紛争処理手続を利用することもできます。
(2) 自賠責保険・共済紛争処理機構は,東京の本部及び大阪支部の2カ所で業務を行っています。
(3) 自賠責保険・共済紛争処理機構の手続は原則として非公開であり(自賠法23条の13),当事者の意見陳述及び立証は文書によることを原則としています(紛争処理業務規程10条5項)。
    そのため,一般の民事調停と異なり書面審査の手続となります。
(4) 自賠責保険・共済紛争処理機構の判断に対しては,自賠責保険会社は自賠責保険普通保険約款に基づき遵守することになっています。
   しかし,被害者は紛争処理機構の判断に従う義務はありませんから,後日,損害賠償請求を提起することはできます。
(5) 民事調停又は民事訴訟に係属中である場合,自賠責保険・共済紛争処理機構の手続は利用できません(紛争処理業務規程5条1項1号)。
 
2 年度別・有無責・後遺障害別変更件数等の推移
   自賠責保険・共済紛争処理機構HPに掲載されている事業報告書によれば,以下のとおりです。
(1) 18年度

   審査件数は559件,有無責による変更は13件,後遺障害による変更は81件
   変更合計は94件,変更率は16.8%
(2) 19年度
   審査件数は656件,有無責による変更は20件,後遺障害による変更は93件
   変更合計は113件,変更率は17.2%
(3) 20年度
   審査件数は716件,有無責による変更は20件,後遺障害による変更は103件
   変更合計は123件,変更率は17.2%
(4) 21年度
   審査件数は770件,有無責による変更は8件,後遺障害による変更は80件
   変更合計は88件,変更率は11.4%
(5) 22年度
   審査件数は893件,有無責による変更は21件,後遺障害による変更は102件
   変更合計は123件,変更率は13.8%
(6) 23年度
   審査件数は951件,有無責による変更は9件,後遺障害による変更は92件
   変更合計は101件,変更率は10.6%
(7) 24年度
   審査件数は894件,有無責による変更は12件,後遺障害による変更は67件
   変更合計は79件,変更率は8.8%
(8) 25年度
   審査件数は872件,有無責による変更は6件,後遺障害による変更は59件
   変更合計は65件,変更率は7.5%
(9) 26年度
   審査件数は871件,有無責による変更は2件,後遺障害による変更は69件
   変更合計は71件,変更率は8.2%
(10)  27年度
    審査件数は940件,有無責による変更は14件,後遺障害による変更は74件
    変更合計は88件,変更率は9.4%
(11) 28年度
    審査件数は968件,有無責による変更は11件,後遺障害による変更は54件
    変更合計は65件,変更率は6.7%
(12) 29年度
    審査件数は950件,有無責による変更は28件,後遺障害による変更は50件
    変更合計は78件,変更率は8.2%

1(1) 被害者側の交通事故(検察審査会を含む。)の初回の面談相談は無料であり,債務整理,相続,情報公開請求その他の面談相談は30分3000円(税込み)ですし,交通事故については,無料の電話相談もやっています(事件受任の可能性があるものに限ります。)
(2) 相談予約の電話番号は「お問い合わせ」に載せています。

2 予約がある場合の相談時間は平日の午後2時から午後8時までですが,事務局の残業にならないようにするために問い合わせの電話は午後7時30分までにしてほしいですし,私が自分で電話に出るのは午後6時頃までです。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。