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後遺障害における基礎収入の認定
第0 目次
第2 基礎収入の認定の総論
第3 給与所得者,事業所得者及び会社役員の場合の補足説明
第4 年少女子の場合の補足説明
*1 「労働能力の喪失割合及び喪失期間」も参照してください。
*2 裁判基準では,専業主婦等の家事従事者の場合,学歴計・女性全年齢平均賃金である372万7100円(平成27年に症状固定となった場合)を基準として後遺障害逸失利益を計算できます。
*3 正社員男女の平均年収につき,未婚の場合,男女で格差はないとする指摘もあります(PRESIDENT Onlineの「正視に耐えない残酷な現実「男性の年収と未婚率」」参照)。
*4 弁護士法人アディーレ法律事務所の交通事故被害者救済サイトに「交通事故による逸失利益の算定方式についての共同提言」(平成11年11月22日付)が載っています。
*5 総務省統計局HPに「平成29年就業構造基本調査」が載っています。
*6 交通事故に関する赤い本講演録2011年・39頁ないし56頁に「外貌の醜状障害による逸失利益に関する近時の裁判実務上の取扱いについて」が載っています。
*7 交通事故に関する赤い本講演録2014年・25頁ないし44頁に「赤字事業を営む経営者の休業損害と逸失利益の算定における基礎収入額」が載っていて,45頁ないし52頁に「高齢者の損害算定に伴う諸問題」が載っています。
*8 交通事故に関する赤い本講演録2019年25頁ないし48頁に,「賃金センサスによる基礎収入額認定上の問題点」が載っています。
第1 逸失利益の算定式等
また,傷病が治癒しても後遺障害がある場合には労働能力が低下し,収入が減少するのが一般的です。
逸失利益とは,このような労働能力の喪失自体(労働能力喪失説),又は労働能力喪失による収入の減少(差額説)のことをいい,年利5%で現在の価値に割り引くことで算定されています。
2 時間的に区分すると,消極損害,つまり,事故がなければ得ることができたであろうにもかかわらず当該事故の結果得ることができなくなった利益のうち,傷害の治療中に関するものが休業損害であり,症状固定以降に関するものが逸失利益です。
3 逸失利益の算定式は以下のとおりです。
① 後遺障害逸失利益の場合
基礎収入(年収)×労働能力喪失割合×中間利息控除係数(労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数)
② 死亡逸失利益の場合
基礎収入(年収)×(1-生活費控除率)×中間利息控除係数(労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数)
第2 基礎収入の認定の総論
1 自賠責保険の場合,迅速な被害者救済という視点から,「年間収入額」と「年相当額」という二つの概念を使用して,ある程度定型的に認定しています。
「年間収入額」とは,資料に基づく現実の収入額をいいます。
「年相当額」とは,「支払基準」で定められている死亡時又は後遺障害確定時の年齢に対応する全年齢平均給与額又は年齢別平均給与額をいいます。
そして,原則として,「年間収入額」と「年相当額」のいずれか高い方を基準として基礎収入が認定されますものの,生涯を通じて全年齢平均給与額の年相当額を得られる蓋然性が認められない場合,認定される基礎収入が「年相当額」を下回ることもあります。
2(1) 裁判基準の場合,基礎収入の算定方法は概要,以下のとおりです。
① 給与所得者,事業所得者及び会社役員
休業損害の場合に準じます。
ただし,若年者(概ね30歳未満の者)については,実収入額が学歴計・全年齢平均賃金(平成24年の場合,男性であれば,年529万6800円であり,女性であれば,年354万7200円)を下回る場合であっても,年齢,職歴,実収入額と学歴計・全年齢平均賃金との乖離の程度,その原因等を総合的に考慮し,将来的に生涯を通じて学歴計・全年齢平均賃金を得られる蓋然性が認められる場合,学歴計・全年齢平均賃金を基礎とします。
その蓋然性が認められない場合であっても,直ちに実収入額を基礎とするのではなく,学歴別・全年齢平均賃金,学歴計・年齢対応平均賃金等が採用されることがあります。
なお,大卒者については,大学卒・全年齢平均賃金(平成24年の場合,男性であれば,年648万1600円であり,女性であれば,年443万4600円)との比較を行います。
② 家事従事者
休業損害の場合に準じますから,学歴計・女性全年齢平均賃金である372万7100円(平成27年に症状固定となった場合)を基準として後遺障害逸失利益を計算できます。
③ 幼児,生徒,学生
原則として,学歴計・全年齢平均賃金を基礎としますものの,大学生又は大学への進学の蓋然性が認められる者については,大学卒・全年齢平均賃金を基礎とします。
年少女子については,原則として,男女をあわせた全労働者の学歴計・全年齢平均賃金(平成20年の場合,年486万600円。)を用いることとなります。
④ 無職者(②及び③を除く。)
被害者の年齢や職歴,勤労能力,勤労意欲等にかんがみ,就労の蓋然性がある場合に認められます。
その場合,基礎収入は,被害者の年齢や失業前の実収入額等を考慮し,蓋然性が認められる収入額によります。
(2) 家事労働に専念する妻は、平均的労働不能年令に達するまで、女子雇傭労働者の平均的賃金に相当する財産上の収益を挙げるものと推定されます(最高裁昭和49年7月19日判決)。
3 賃金センサスを用いる場合,症状固定時の年度の統計を使用します。
4(1) センサスとは,特定の社会事象について,特定の時点で一斉に行われる全数調査をいい,通常は,官庁の行う大規模調査をいいます。
(2) 実務の友HPの「賃金センサスによる「平均賃金」」によれば,家事従事者の基礎収入を計算する場合に使用される,女性の全年齢平均賃金の推移は以下のとおりです。
平成26年:364万1200円
平成27年:372万7100円
平成28年:376万2300円
平成29年:377万8200円
第3 給与所得者,事業所得者及び会社役員の場合の補足説明
そのため,若年者(概ね30歳未満の者)については,学生との均衡もあり,全年齢平均賃金を用いることが考慮されています(「大阪地裁における交通損害賠償の算定基準(第3版)」6頁参照)。
2(1) 被害者の勤務先に定年退職制が設けられている場合,定年退職後の基礎収入をどう認定するかという問題がありますものの,67歳までの期間を通じて同一額を基礎として逸失利益を算定し,定年退職を考慮しない代わりに,退職金を考慮しないことが多いです。
ただし,給与収入が相当高額で,定年後はそれだけの収入を維持することが難しいと認められる場合,定年後は60歳~64歳の賃金センサス又は実収入額の一定割合を基礎収入とすることもあります。
(2) 退職金を別途考慮する場合,定年まで勤務すれば得られたであろう退職金と実際に支給された退職金との差額につき,中間利息を控除して損害を認定することとなります。
3 将来の一般的な賃金や物価の上昇・下降は考慮しません(最高裁昭和58年2月18日判決参照)。
第4 年少女子の場合の補足説明
しかし,大阪地裁では,近時の女性労働者の就労状況等にかんがみ,今後,男女間の賃金格差は縮小する見込みにあると考えられることなどから,原則として,男女を合わせた全労働者の賃金センサスを用いることとされています(「大阪地裁における交通損害賠償の算定基準(第3版)」7頁参照)。
2 年少女子の範囲については,①原則として中学校卒業時までとする見解,②高校卒業時までとする見解等に分かれています。
3 最高裁昭和39年6月24日判決は以下のとおり判示しています。
年少者死亡の場合における右消極的損害の賠償請求については、一般の場合に比し不正確さが伴うにしても、裁判所は、被害者側が提出するあらゆる証拠資料に基づき、経験則とその良識を十分に活用して、できうるかぎり蓋然性のある額を算出するよう努め、ことに右蓋然性に疑がもたれるときは、被害者側にとって控え目な算定方法(たとえば、収入額につき疑があるときはその額を少な目に、支出額につき疑があるときはその額を多めに計算し、また遠い将来の収支の額に懸念があるときは算出の基礎たる期間を短縮する等の方法)を採用することにすれば、慰藉料制度に依存する場合に比較してより客観性のある額を算出することができ、被害者側の救済に資する反面、不法行為者に過当な責任を負わせることともならず、損失の公平な分担を窮極の目的とする損害賠償制度の理念にも副うのではないかと考えられる。要するに、問題は、事案毎に、その具体的事情に即応して解決されるべきであり、所論のごとく算定不可能として一概にその請求を排斥し去るべきではない。
4 交通事故に関する赤い本講演録2018年・7頁ないし26頁に「女子年少者の逸失利益算定における基礎収入について」が載っています。
2 予約がある場合の相談時間は平日の午後2時から午後8時までですが,事務局の残業にならないようにするために問い合わせの電話は午後7時30分までにしてほしいですし,私が自分で電話に出るのは午後6時頃までです。