日本医師会プレスリリース・バックナンバーに掲載されている,日本医師会労災・自賠責委員会の
平成24年2月の答申・18頁ないし20頁(PDF26頁ないし28頁)には,以下の記載があります。
3.医療現場から指摘されている健康保険の使用に係る問題
前述したような要因により、交通事故診療において安易に健康保険を使用する事例が多発した結果、具体的にどのような問題が発生しているのか、①医療提供に係る問題、②診療費の請求・支払い及び事務負担等に係る問題、③健康保険財政に係る問題に分け整理を図るとともに、今後の方向性を検討した。
(1)医療提供に係る問題
交通事故診療を担う医療の現場では、不幸にも事故の被害に遭ってしまった患者に対して、できる限り早期に、かつ、事故に遭う前と変わらない状態で社会復帰させることが求められている。そのため、医療機関に搬送直後から患者の全身状態を素早く確認するとともに、あらゆる可能性を考慮しながら、早期に集中的な治療を行う必要があるのである。
こうした患者の治療に対し、法律、療担規則などの縛りの多い、いわゆる制限診療につながる現行の健康保険を適用するということは、結果的に十分な治療を提供できず、被害者の不利益につながる可能性があるという問題がある。
(2)診療費の請求・支払い及び事務負担等に係る問題
被害者が健康保険を使用した場合、当然、医療機関は、健康保険法、船員保険法、国民健康保険法及び高齢者の医療の確保に関する法律(以下、「医療保険各法」という。)の各規程に従う必要があり、逆に言えば、医療保険各法に規定されていないことを被害者や損害保険会社に求められたとしても、それに応じる義務はないとも言える。
しかし、それを理解した上で健康保険を使用する被害者は少ない。例えば、健保法第74条に規定されている窓口一部負担金については、受診の都度、療養の給付を受けた者(被害者本人)が医療機関等に支払うことになっているが、被害者が支払いを拒否し損保会社に請求するよう求める場合や、損保会社に請求したとしても、1か月分を月末に一括して支払うなどの規程に反した条件を提示されるなど、対応に苦慮することが多い。その他、被害者から、損保会社に言われるがまま自動車事故特有の書類作成等を要請されるケースも多く、それにやむを得ず対応する医師、医療機関スタッフの事務負担が膨大になっているという問題もある。
(3)健康保険財政に係る問題
健保法第57条に規定されているとおり、給付事由が第三者の行為によって生じたものについて保険給付を行った場合には、医療保険の保険者(以下、「医療保険者」という。)は損害賠償請求権を代位取得することとなり、加害者又は加害者が加入する自賠責保険の保険者に求償することになっている。
即ち、一時的に健康保険を経由することにはなるが、最終的に交通事故診療に係る診療費は自賠責保険から給付され、健康保険の財源が使われることはないはずである。
前期委員会では、国保、社保、労災保険について、求償状況に関するアンケート調査を行い、その結果、正確な求償状況の把握までは至らなかったが、様々な原因により、医療保険者が適切に求償できていない事例があることが浮き彫りとなった。
これは、健康保険の医療費の中に他保険等から給付されるべき医療費が含まれていることに他ならず、健康保険財政の悪化(赤字)が叫ばれて久しい中、医療保険財源の適正使用という観点から問題があり、また、求償事務に係る医療保険者の負担の増大という問題も含むものである。