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人身傷害補償保険
第0 目次
第1 総論
第2 人身傷害補償保険が適用される場合等
第3 人身傷害補償保険の請求時期(人傷先行型及び賠償先行型)と,最終的な回収額との関係
第4 東京海上日動のトータルアシスト自動車保険の場合
第5 人身傷害補償保険金を支払った損害保険会社が代位取得した損害賠償請求権の消滅時効
* 日本損害保険協会HPの「保険金と税金」によれば,人身傷害補償保険の保険金のうち被保険者自身の過失部分だけが課税対象となります(平成11年10月18日付の国税庁法令解釈通達「人身傷害補償保険金に係る所得税、相続税及び贈与税の取扱い等について」参照)。
そして,被相続人が保険料を負担している場合は相続税となり,保険金受取人が保険料を負担している場合は所得税(一時所得)となり,第三者が保険料を負担している場合(例えば,父親が保険料を負担し,被保険者としての母親が死亡した場合において,子どもが保険金受取人となる場合)は贈与税となります。
第2 人身傷害補償保険が適用される場合等
第3 人身傷害補償保険の請求時期(人傷先行型及び賠償先行型)と,最終的な回収額との関係
第4 東京海上日動のトータルアシスト自動車保険の場合
第5 人身傷害補償保険金を支払った損害保険会社が代位取得した損害賠償請求権の消滅時効
* 日本損害保険協会HPの「保険金と税金」によれば,人身傷害補償保険の保険金のうち被保険者自身の過失部分だけが課税対象となります(平成11年10月18日付の国税庁法令解釈通達「人身傷害補償保険金に係る所得税、相続税及び贈与税の取扱い等について」参照)。
そして,被相続人が保険料を負担している場合は相続税となり,保険金受取人が保険料を負担している場合は所得税(一時所得)となり,第三者が保険料を負担している場合(例えば,父親が保険料を負担し,被保険者としての母親が死亡した場合において,子どもが保険金受取人となる場合)は贈与税となります。
第1 総論
1(1) 人身傷害補償保険は,交通事故により記名被保険者及びその同居の家族等が損害を被った場合に保険金を支払うものです。
被害者の過失部分の損害を補償するということで,被保険者らの過失であると,加害者の過失であるとを問わず,一括して保険金が支払われます。
(2) 人身傷害補償保険の保険金は,実際の損害額を基準としているものの,自動車保険約款の基準に基づく金額であって,訴訟基準に基づく金額よりも少ないです。
ただし,人身傷害補償保険の場合,被保険者の現実収入が少なくても,年齢別平均賃金によって休業損害や逸失利益を算定することが認められている場合がありますから,場合によっては,人身傷害補償保険の保険金が実際の損害額を上回ることがあります。
(3) 人身傷害補償保険は,損害保険市場の自由化を受けて,当時の東京海上火災保険株式会社が平成10年10月1日に発売を始めた保険商品です。
2 人身傷害補償保険は,人身損害の「被害者側が」契約しておき,被害者側に保険金が支払われるものであるという点で,人身損害の「加害者側が」契約しておき,加害者側の損害賠償責任を填補するために保険金が支払われる「賠償責任保険」とは異なります。
3 搭乗者傷害保険(定額払い)にも加入している場合,人身傷害補償保険(実損払い)とは別枠で搭乗者傷害保険が適用されます。
4(1) 被害者の過失が0%であり,加害者が対人賠償責任保険に加入している場合,被害者が受領できる損害賠償金は,被害者が人身傷害補償保険に入っている場合と入っていない場合とで異なりません。
これに対して被害者の過失がわずかでもあったり,加害者が対人賠償責任保険に加入していなかったりした場合,被害者が受領できる損害賠償金は,被害者が人身傷害補償保険に張っている場合の方が多くなります。
(2) はじめて自動車保険HPの「全国・都道府県別の自動車保険の加入率」によれば,平成27年3月末時点において,対人賠償責任保険の加入率は73.8%であり,自動車共済を含めても加入率は約85%とのことです。
そのため,約15%の自動車は自賠責保険にしか入っていないこととなりますから,人身傷害補償保険に入っておいた方が安心です。
実際,「全国・都道府県別の自動車保険の加入率」によれば,平成27年3月末時点において,人身傷害補償保険の加入率は67.0%となっています。
5 人身傷害補償保険だけを利用した場合,ノンフリート等級が下がることはありません(「ノンフリート等級」参照)。
6(1) 人身傷害補償保険は,自分の側に100%の過失がある場合であっても使えます。
(2) 飲酒運転で交通事故を起こした場合,運転者本人について人身傷害補償保険は適用されません。
しかし,飲酒運転で交通事故を起こした自動車に同乗者がいた場合,同乗者が受けた損害については,原則として,対人賠償責任保険のほか,人身傷害補償保険が適用されます(自動車保険完全マニュアルHPの「飲酒運転で事故を起こしてしまった!事故の相手方が飲酒運転だった!保険金は支払われる?」参照)。
7 人身傷害補償保険の保険金は,保険約款上,同一の損害について労災保険給付が受けられる場合には,その給付される額(労働福祉事業の特別支給金を除く。)を差し引いて支払うものとされています。
被害者の過失部分の損害を補償するということで,被保険者らの過失であると,加害者の過失であるとを問わず,一括して保険金が支払われます。
(2) 人身傷害補償保険の保険金は,実際の損害額を基準としているものの,自動車保険約款の基準に基づく金額であって,訴訟基準に基づく金額よりも少ないです。
ただし,人身傷害補償保険の場合,被保険者の現実収入が少なくても,年齢別平均賃金によって休業損害や逸失利益を算定することが認められている場合がありますから,場合によっては,人身傷害補償保険の保険金が実際の損害額を上回ることがあります。
(3) 人身傷害補償保険は,損害保険市場の自由化を受けて,当時の東京海上火災保険株式会社が平成10年10月1日に発売を始めた保険商品です。
2 人身傷害補償保険は,人身損害の「被害者側が」契約しておき,被害者側に保険金が支払われるものであるという点で,人身損害の「加害者側が」契約しておき,加害者側の損害賠償責任を填補するために保険金が支払われる「賠償責任保険」とは異なります。
3 搭乗者傷害保険(定額払い)にも加入している場合,人身傷害補償保険(実損払い)とは別枠で搭乗者傷害保険が適用されます。
4(1) 被害者の過失が0%であり,加害者が対人賠償責任保険に加入している場合,被害者が受領できる損害賠償金は,被害者が人身傷害補償保険に入っている場合と入っていない場合とで異なりません。
これに対して被害者の過失がわずかでもあったり,加害者が対人賠償責任保険に加入していなかったりした場合,被害者が受領できる損害賠償金は,被害者が人身傷害補償保険に張っている場合の方が多くなります。
(2) はじめて自動車保険HPの「全国・都道府県別の自動車保険の加入率」によれば,平成27年3月末時点において,対人賠償責任保険の加入率は73.8%であり,自動車共済を含めても加入率は約85%とのことです。
そのため,約15%の自動車は自賠責保険にしか入っていないこととなりますから,人身傷害補償保険に入っておいた方が安心です。
実際,「全国・都道府県別の自動車保険の加入率」によれば,平成27年3月末時点において,人身傷害補償保険の加入率は67.0%となっています。
5 人身傷害補償保険だけを利用した場合,ノンフリート等級が下がることはありません(「ノンフリート等級」参照)。
6(1) 人身傷害補償保険は,自分の側に100%の過失がある場合であっても使えます。
(2) 飲酒運転で交通事故を起こした場合,運転者本人について人身傷害補償保険は適用されません。
しかし,飲酒運転で交通事故を起こした自動車に同乗者がいた場合,同乗者が受けた損害については,原則として,対人賠償責任保険のほか,人身傷害補償保険が適用されます(自動車保険完全マニュアルHPの「飲酒運転で事故を起こしてしまった!事故の相手方が飲酒運転だった!保険金は支払われる?」参照)。
7 人身傷害補償保険の保険金は,保険約款上,同一の損害について労災保険給付が受けられる場合には,その給付される額(労働福祉事業の特別支給金を除く。)を差し引いて支払うものとされています。
そのため,労災保険として損害の二重てん補を未然に防止し円滑な事務処理を行う目的から,人身傷害補償保険からも保険金を受けとることができる被災者等が労災保険給付の請求を行った場合には,人身傷害補償保険取扱保険会社に対して,労災保険給付の請求があった旨を通知する取り扱いを行っています(大分労働局HPの「特に注意すべき事項について」参照)。
第2 人身傷害補償保険が適用される場合等
1 人身傷害補償保険が適用される場合
(1) 人身傷害補償保険は以下の場合に適用されます。
① 被保険自動車に乗車中に交通事故が発生した場合
・ 搭乗者全員に適用されます。
② 「他の」自動車に乗車中に交通事故が発生した場合
・ 記名被保険者及びその家族に適用されます。
例えば,友人の車に乗っているときに交通事故にあってケガをした場合に適用されます。
③ 歩行中や自転車運転中に交通事故が発生した場合
・ 記名被保険者及びその家族に適用されます。
例えば,子供が通学途中に交通事故にあってケガをした場合に適用されます。
(2) ②及び③の家族の範囲は,記名被保険者(=保険証券に記載されている被保険者),記名被保険者の配偶者,同居の親族及び別居の未婚の子(=婚姻歴がない子)です。
(3)ア ②の「他の自動車」には,自分所有の別の自動車,及び家族所有の自動車は含まれません。
そのため,例えば,人身障害補償保険に入っていない配偶者の車に乗車中に交通事故が発生した場合,人身障害補償保険が適用されることはありません。
イ 社用車など勤務先の自動車に業務のために搭乗している場合,②の例外として人身障害補償保険は適用されません。
ただし,この場合,業務災害として労災保険の対象となります。
(3) 二輪自動車又は原動機付自転車に乗車中に交通事故が発生した場合,自動車に関する人身傷害補償保険は通常,適用されません。
2 人身傷害補償保険の適用範囲には差があること
(1) 人身傷害補償保険によっては,適用される場合が①の場合に限定されていることがあります。
例えば,東京海上日動及び損保ジャパン日本興亜の自動車保険の場合,人身傷害補償保険が適用されるのは①の場合に限られるのであって,特約を付けた場合に限り,②及び③の場合にも適用されることとなります(東京海上日動HPの「人身傷害保険」,及び損保ジャパン日本興亜HPの「人身傷害保険」参照)。
(2) セゾン自動車火災の「おとなの自動車保険」の場合,2016年3月末時点でいえば,97.3%が人身傷害補償保険に加入し,そのうちの86.1%が「車内・車外ともに補償」(=①ないし③の場合すべての補償)を選んでいるとのことです(おとなの自動車保険HPの「人身傷害」参照)。
3 具体例
(1) 搭乗者傷害保険及び人身障害補償保険の両方に入っていた場合において,運転手に過失があるとき,当該運転手に対し,自分の自動車保険から,搭乗者傷害保険及び人身障害補償保険の両方から保険金が支払われます。
(2) 友人の自動車に同乗しているときに交通事故にあった場合において,その友人が搭乗者傷害保険及び人身障害補償保険の両方に入っていたとき,当該同乗者に対し,友人の自動車保険から,対人賠償責任保険に加えて搭乗者傷害保険及び人身障害補償保険の両方から保険金が支払われます。
この場合において,当該同乗者の同居の父親が,車外事故も対象とする人身傷害補償保険に加入していた場合,当該同乗者は,父親の人身傷害補償保険からも保険金が支払われますものの,友人及び父親の人身傷害補償保険から二重に保険金が支払われるわけではありません。
(1) 人身傷害補償保険は以下の場合に適用されます。
① 被保険自動車に乗車中に交通事故が発生した場合
・ 搭乗者全員に適用されます。
② 「他の」自動車に乗車中に交通事故が発生した場合
・ 記名被保険者及びその家族に適用されます。
例えば,友人の車に乗っているときに交通事故にあってケガをした場合に適用されます。
③ 歩行中や自転車運転中に交通事故が発生した場合
・ 記名被保険者及びその家族に適用されます。
例えば,子供が通学途中に交通事故にあってケガをした場合に適用されます。
(2) ②及び③の家族の範囲は,記名被保険者(=保険証券に記載されている被保険者),記名被保険者の配偶者,同居の親族及び別居の未婚の子(=婚姻歴がない子)です。
(3)ア ②の「他の自動車」には,自分所有の別の自動車,及び家族所有の自動車は含まれません。
そのため,例えば,人身障害補償保険に入っていない配偶者の車に乗車中に交通事故が発生した場合,人身障害補償保険が適用されることはありません。
イ 社用車など勤務先の自動車に業務のために搭乗している場合,②の例外として人身障害補償保険は適用されません。
ただし,この場合,業務災害として労災保険の対象となります。
(3) 二輪自動車又は原動機付自転車に乗車中に交通事故が発生した場合,自動車に関する人身傷害補償保険は通常,適用されません。
2 人身傷害補償保険の適用範囲には差があること
(1) 人身傷害補償保険によっては,適用される場合が①の場合に限定されていることがあります。
例えば,東京海上日動及び損保ジャパン日本興亜の自動車保険の場合,人身傷害補償保険が適用されるのは①の場合に限られるのであって,特約を付けた場合に限り,②及び③の場合にも適用されることとなります(東京海上日動HPの「人身傷害保険」,及び損保ジャパン日本興亜HPの「人身傷害保険」参照)。
(2) セゾン自動車火災の「おとなの自動車保険」の場合,2016年3月末時点でいえば,97.3%が人身傷害補償保険に加入し,そのうちの86.1%が「車内・車外ともに補償」(=①ないし③の場合すべての補償)を選んでいるとのことです(おとなの自動車保険HPの「人身傷害」参照)。
3 具体例
(1) 搭乗者傷害保険及び人身障害補償保険の両方に入っていた場合において,運転手に過失があるとき,当該運転手に対し,自分の自動車保険から,搭乗者傷害保険及び人身障害補償保険の両方から保険金が支払われます。
(2) 友人の自動車に同乗しているときに交通事故にあった場合において,その友人が搭乗者傷害保険及び人身障害補償保険の両方に入っていたとき,当該同乗者に対し,友人の自動車保険から,対人賠償責任保険に加えて搭乗者傷害保険及び人身障害補償保険の両方から保険金が支払われます。
この場合において,当該同乗者の同居の父親が,車外事故も対象とする人身傷害補償保険に加入していた場合,当該同乗者は,父親の人身傷害補償保険からも保険金が支払われますものの,友人及び父親の人身傷害補償保険から二重に保険金が支払われるわけではありません。
第3 人身傷害補償保険の請求時期(人傷先行型及び賠償先行型)と,最終的な回収額との関係
1 前提となる事例等
(1) 訴訟基準に基づく被害額が1000万円であり,人身傷害補償保険の基準に基づく被害額が800万円であり,自賠責保険基準に基づく損害額が500万円であり,過失割合が50%の交通事故の被害者(過失相殺後の損害賠償請求権の額は500万円です。)が,加害者の対人賠償責任保険及び自分の人身傷害補償保険の両方を利用できる。
(2) 訴訟基準に基づく被害額というのは,民法上認められるべき過失相殺前の損害額のことです(最高裁平成24年2月20日判決)。
(3) 加害者が被保険者となっている対人賠償責任保険の保険会社を対人社といい,人身傷害補償保険の保険会社を人傷社といいます。
2 被害者が先に人身傷害補償保険の保険金の支払を受けた場合(人傷先行型)
(1)ア 被害者は,自分の過失割合に関係なく,人傷社から800万円を支払ってもらえます。
その後,加害者に対して損害賠償請求訴訟を提起した場合,差額の200万円を支払ってもらえます(最高裁平成24年2月20日判決)。
そのため,被害者の最終的な回収額は1000万円となります。
イ 加害者が被保険者となっている対人社は,自賠責保険に対し,200万円を限度として加害者請求をします。
そのため,人傷社が自賠責保険金を回収している場合,自賠責保険を通じて,対人社に200万円を限度とする返金の問題が発生します。
ウ 対人社が自賠責保険に請求する金額は加害者の過失割合に比例しますところ,加害者の過失割合が65%以下である限り,自賠責保険の重過失減額(傷害部分は2割減額,後遺障害部分は2割,3割又は5割減額)がありません。
そのため,後遺障害事案でない場合,人傷社が自賠責保険金を回収している場合における返金額は,加害者の過失割合が65%であるときに最大となります。
(2) 最高裁平成24年2月20日判決は,①人身傷害補償保険金の額と②被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が③民法上認められるべき過失相殺前の損害額を上回る場合に限り,その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得すると判示しています。
そのため,前提となる事例では,①人身傷害補償保険金の額800万円+②被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額500万円-③民法上認められる過失相殺前の損害額1000万円=300万円についてだけ,人傷社が対人社に対して求償できることとなります。
その結果,加害者の対人賠償責任保険の最終的な負担額は,(a)被害者に対する支払分200万円及び(b)人身傷害補償保険の求償に対する支払分300万円の合計500万円となります。
(3)ア 人傷先行型の場合,人傷社が対人社に対して加害者の過失部分500万円について求償することとなります。
その関係で人傷社の手間が増えますから,加害者の過失割合が大きい場合,被害者にとっての必要性が小さいことと相まって,手続を嫌がられることがあります。
また,損害賠償請求訴訟を提起した場合,訴訟上の和解をするにしても5%の遅延損害金を考慮してもらえますから,先に人身傷害補償保険の保険金を受領した場合,その分,遅延損害金が減ることとなります。
イ 人傷先行型の場合,人傷社が自賠責保険に対する被害者請求権を優先的に行使することを主張する結果,訴訟をしない限り,自賠責保険相当額が事実上,被害者の自己負担となることがあります。
例えば,前提となる事例において自賠責保険相当額が500万円である場合,被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額500万円から500万円を控除される結果,訴訟をしない限り,被害者は加害者に対し,全く損害賠償請求ができない反面,前提となる事例において被害者の過失割合が10%である場合,被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額900万円から500万円を控除されるにすぎませんから,被害者は加害者に対し,200万円の損害賠償請求をできます。
つまり,被害者の過失割合が大きいほど,自賠責保険相当額が事実上,被害者の自己負担となることの弊害が大きいということです。
(3) 被害者が人身傷害補償保険に基づく傷害保険金を受領した場合,保険会社の代位の成否及びその範囲を確定するため,裁判所としては,人身傷害補償保険の約款の具体的内容を必ず確認する必要があります(最高裁平成20年10月7日判決参照)。
3 被害者が先に加害者から損害賠償金を回収した場合(賠償先行型)
(1) 被害者は,加害者から500万円(=1000万円×加害者の過失割合50%)の損害賠償金を支払ってもらえます。
その後,被害者が人身傷害補償保険に保険金を請求した場合,以下の二つの取扱いがあります。
① 人傷基準差額説に基づく取扱い(大阪高裁平成24年6月7日判決)
この場合,人身傷害補償保険の基準に基づく被害額は800万円であり,既に500万円の損害賠償金が支払われているから,差額の300万円しか支払ってもらえません。
そのため,被害者の最終的な回収額は800万円となります。
② 訴訟基準差額説に基づく取扱い(最高裁平成24年5月29日判決の裁判官田原睦夫の補足意見)
この場合,訴訟基準に基づく被害額は1000万円であり,既に支払われた500万円との差額500万円を支払ってもらえます。
そのため,被害者の最終的な回収額は1000万円となります。
(2)ア 自分が被保険者となっている保険会社が賠償先行型において人傷基準差額説と訴訟基準差額説のどちらを採用しているかを知るためには,弁護士に自動車保険約款を確認してもらった方がいいです。
特に,加害者に対して損害賠償請求訴訟を提起した上で損害賠償金を回収した場合,賠償先行型でも訴訟基準差額説で人身傷害補償保険の対応をしてくれる保険会社が増えてます。
イ 「交通事故事件21のメソッド」94頁には,平成28年9月時点の主要な保険約款では,「判決又は訴訟上の和解において賠償義務者が負担すべきとされた損害賠償額」(いわゆる訴訟基準損害額)が人傷基準損害額と異なる場合,訴訟基準損害額を人傷基準損害額とみなす旨の条項が設けられていると書いてあります。
これによれば,主要な保険会社では,賠償先行型でも訴訟基準差額説で人身傷害補償保険の対応をしてくれることとなります。
ウ 賠償先行型でも訴訟基準差額説で人身傷害補償保険の対応をしてもらえる場合,訴訟上の和解をするのであれば,過失割合よりも損害認定額にこだわった方がいいです。
(3) 賠償先行型で人身傷害補償保険金を請求する場合,以下の資料が必要となります。
① 交通事故証明書
② 診断書及び診療報酬明細書
③ 休業損害関連資料
④ 訴状
⑤ 判決書,又は和解調書及び和解金の内訳が分かる文書
⑥ その他認定された損害の立証資料
(4) 賠償先行型において,対人社との間で,訴訟外で示談をしたり,交通事故紛争処理センターで解決したりした場合,通常は人傷基準差額説での対応しかしてもらえません。
4 被害者の最終的な回収額の上限
(1) 賠償先行型であると,人傷先行型であるとを問わず,①「過失相殺なしの訴訟基準の損害賠償請求権」と,②「人身傷害補償保険の保険金及び被害者の過失相殺後の損害賠償請求権の合計額」の小さい方が,被害者の最終的な回収額の上限となります。
そのため,被害者の過失が大きい場合,被害者の最終的な回収額は,訴訟基準損害額に満たないことがあります。
(2) 例えば,被害者の過失割合が100%である場合,被害者は人身傷害補償保険しか受領できませんから,訴訟基準損害額の全額を回収することはできません。
5 弁護士費用特約との関係
(1) 人傷先行型の場合
ア(ア) 訴訟基準の損害額が自賠責保険基準の損害額より大きい場合,加害者に過失がある限り,人身傷害補償保険を受領した被保険者は損害賠償請求訴訟を提起することで追加の損害賠償金を受領できます。
そのため,被害者の過失が大きい場合であっても,将来の訴訟提起を前提とすれば,理論上は常に弁護士費用特約を使えます。
(イ) 加害者の過失が100%でない限り,将来の訴訟の結果として,人傷社は,自賠責保険金を返金する必要が出てきます。
そのため,人傷先行型の場合,人傷社としては,弁護士費用特約の利用を嫌がることがあります。
イ(ア) 2日に1回以上のペースで整形外科又は整骨院に通院し,かつ,現実の休業日数が長いなどの理由で休業損害が大きかった場合,自賠責保険基準の損害額が訴訟基準の損害額を上回ることがあります。
ただし,180日間,2日に1回以上のペースで通院した場合,訴訟基準の通院慰謝料は80万円であるのに対し,自賠責保険基準の通院慰謝料は4200円✕180日=75万6000円ですから,休業損害を伴わない限り,理論上は,訴訟基準の損害額が自賠責保険基準の損害額を下回ることはありません。
(イ) 整形外科に月に1,2回しか通わず,それ以外は2日に1回ぐらいのペースで6ヶ月間,整骨院に通院していた場合,訴訟基準では治療期間を制限される可能性が極めて高いのに対し,自賠責保険基準では治療期間を制限されないことがあります。
この場合,例えば,訴訟基準の治療期間が3ヶ月であり,自賠責保険基準の治療期間が6ヶ月の場合,訴訟基準の通院慰謝料は48万円となり,自賠責保険基準の通院慰謝料は75万6000円となりますから,前者が後者を下回ることとなります。
(2) 賠償先行型の場合
ア 自賠責保険に対する被害者請求をしない場合
全く問題なく弁護士費用保険を使えます。
イ 自賠責保険に対する被害者請求をする場合
(ア) 過失相殺「後の」訴訟基準の損害額が自賠責保険からの支払額より多いと見込まれる場合,全く問題なく弁護士費用特約を使えます。
(イ) 自賠責保険は加害者の過失部分に充当されるため,訴訟提起前に自賠責保険に対する被害者請求をした場合,過失相殺「後の」訴訟基準の損害額が自賠責保険からの支払額より多くない限り,請求棄却判決となります。
そのため,賠償先行型としたい場合において,過失相殺「後の」訴訟基準の損害額が自賠責保険からの支払額より少ないと見込まれる場合,自賠責保険の被害者請求をしないまま訴訟提起する必要があると思います。
(1) 訴訟基準に基づく被害額が1000万円であり,人身傷害補償保険の基準に基づく被害額が800万円であり,自賠責保険基準に基づく損害額が500万円であり,過失割合が50%の交通事故の被害者(過失相殺後の損害賠償請求権の額は500万円です。)が,加害者の対人賠償責任保険及び自分の人身傷害補償保険の両方を利用できる。
(2) 訴訟基準に基づく被害額というのは,民法上認められるべき過失相殺前の損害額のことです(最高裁平成24年2月20日判決)。
(3) 加害者が被保険者となっている対人賠償責任保険の保険会社を対人社といい,人身傷害補償保険の保険会社を人傷社といいます。
2 被害者が先に人身傷害補償保険の保険金の支払を受けた場合(人傷先行型)
(1)ア 被害者は,自分の過失割合に関係なく,人傷社から800万円を支払ってもらえます。
その後,加害者に対して損害賠償請求訴訟を提起した場合,差額の200万円を支払ってもらえます(最高裁平成24年2月20日判決)。
そのため,被害者の最終的な回収額は1000万円となります。
イ 加害者が被保険者となっている対人社は,自賠責保険に対し,200万円を限度として加害者請求をします。
そのため,人傷社が自賠責保険金を回収している場合,自賠責保険を通じて,対人社に200万円を限度とする返金の問題が発生します。
ウ 対人社が自賠責保険に請求する金額は加害者の過失割合に比例しますところ,加害者の過失割合が65%以下である限り,自賠責保険の重過失減額(傷害部分は2割減額,後遺障害部分は2割,3割又は5割減額)がありません。
そのため,後遺障害事案でない場合,人傷社が自賠責保険金を回収している場合における返金額は,加害者の過失割合が65%であるときに最大となります。
(2) 最高裁平成24年2月20日判決は,①人身傷害補償保険金の額と②被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が③民法上認められるべき過失相殺前の損害額を上回る場合に限り,その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得すると判示しています。
そのため,前提となる事例では,①人身傷害補償保険金の額800万円+②被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額500万円-③民法上認められる過失相殺前の損害額1000万円=300万円についてだけ,人傷社が対人社に対して求償できることとなります。
その結果,加害者の対人賠償責任保険の最終的な負担額は,(a)被害者に対する支払分200万円及び(b)人身傷害補償保険の求償に対する支払分300万円の合計500万円となります。
(3)ア 人傷先行型の場合,人傷社が対人社に対して加害者の過失部分500万円について求償することとなります。
その関係で人傷社の手間が増えますから,加害者の過失割合が大きい場合,被害者にとっての必要性が小さいことと相まって,手続を嫌がられることがあります。
また,損害賠償請求訴訟を提起した場合,訴訟上の和解をするにしても5%の遅延損害金を考慮してもらえますから,先に人身傷害補償保険の保険金を受領した場合,その分,遅延損害金が減ることとなります。
イ 人傷先行型の場合,人傷社が自賠責保険に対する被害者請求権を優先的に行使することを主張する結果,訴訟をしない限り,自賠責保険相当額が事実上,被害者の自己負担となることがあります。
例えば,前提となる事例において自賠責保険相当額が500万円である場合,被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額500万円から500万円を控除される結果,訴訟をしない限り,被害者は加害者に対し,全く損害賠償請求ができない反面,前提となる事例において被害者の過失割合が10%である場合,被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額900万円から500万円を控除されるにすぎませんから,被害者は加害者に対し,200万円の損害賠償請求をできます。
つまり,被害者の過失割合が大きいほど,自賠責保険相当額が事実上,被害者の自己負担となることの弊害が大きいということです。
(3) 被害者が人身傷害補償保険に基づく傷害保険金を受領した場合,保険会社の代位の成否及びその範囲を確定するため,裁判所としては,人身傷害補償保険の約款の具体的内容を必ず確認する必要があります(最高裁平成20年10月7日判決参照)。
3 被害者が先に加害者から損害賠償金を回収した場合(賠償先行型)
(1) 被害者は,加害者から500万円(=1000万円×加害者の過失割合50%)の損害賠償金を支払ってもらえます。
その後,被害者が人身傷害補償保険に保険金を請求した場合,以下の二つの取扱いがあります。
① 人傷基準差額説に基づく取扱い(大阪高裁平成24年6月7日判決)
この場合,人身傷害補償保険の基準に基づく被害額は800万円であり,既に500万円の損害賠償金が支払われているから,差額の300万円しか支払ってもらえません。
そのため,被害者の最終的な回収額は800万円となります。
② 訴訟基準差額説に基づく取扱い(最高裁平成24年5月29日判決の裁判官田原睦夫の補足意見)
この場合,訴訟基準に基づく被害額は1000万円であり,既に支払われた500万円との差額500万円を支払ってもらえます。
そのため,被害者の最終的な回収額は1000万円となります。
(2)ア 自分が被保険者となっている保険会社が賠償先行型において人傷基準差額説と訴訟基準差額説のどちらを採用しているかを知るためには,弁護士に自動車保険約款を確認してもらった方がいいです。
特に,加害者に対して損害賠償請求訴訟を提起した上で損害賠償金を回収した場合,賠償先行型でも訴訟基準差額説で人身傷害補償保険の対応をしてくれる保険会社が増えてます。
イ 「交通事故事件21のメソッド」94頁には,平成28年9月時点の主要な保険約款では,「判決又は訴訟上の和解において賠償義務者が負担すべきとされた損害賠償額」(いわゆる訴訟基準損害額)が人傷基準損害額と異なる場合,訴訟基準損害額を人傷基準損害額とみなす旨の条項が設けられていると書いてあります。
これによれば,主要な保険会社では,賠償先行型でも訴訟基準差額説で人身傷害補償保険の対応をしてくれることとなります。
ウ 賠償先行型でも訴訟基準差額説で人身傷害補償保険の対応をしてもらえる場合,訴訟上の和解をするのであれば,過失割合よりも損害認定額にこだわった方がいいです。
(3) 賠償先行型で人身傷害補償保険金を請求する場合,以下の資料が必要となります。
① 交通事故証明書
② 診断書及び診療報酬明細書
③ 休業損害関連資料
④ 訴状
⑤ 判決書,又は和解調書及び和解金の内訳が分かる文書
⑥ その他認定された損害の立証資料
(4) 賠償先行型において,対人社との間で,訴訟外で示談をしたり,交通事故紛争処理センターで解決したりした場合,通常は人傷基準差額説での対応しかしてもらえません。
4 被害者の最終的な回収額の上限
(1) 賠償先行型であると,人傷先行型であるとを問わず,①「過失相殺なしの訴訟基準の損害賠償請求権」と,②「人身傷害補償保険の保険金及び被害者の過失相殺後の損害賠償請求権の合計額」の小さい方が,被害者の最終的な回収額の上限となります。
そのため,被害者の過失が大きい場合,被害者の最終的な回収額は,訴訟基準損害額に満たないことがあります。
(2) 例えば,被害者の過失割合が100%である場合,被害者は人身傷害補償保険しか受領できませんから,訴訟基準損害額の全額を回収することはできません。
5 弁護士費用特約との関係
(1) 人傷先行型の場合
ア(ア) 訴訟基準の損害額が自賠責保険基準の損害額より大きい場合,加害者に過失がある限り,人身傷害補償保険を受領した被保険者は損害賠償請求訴訟を提起することで追加の損害賠償金を受領できます。
そのため,被害者の過失が大きい場合であっても,将来の訴訟提起を前提とすれば,理論上は常に弁護士費用特約を使えます。
(イ) 加害者の過失が100%でない限り,将来の訴訟の結果として,人傷社は,自賠責保険金を返金する必要が出てきます。
そのため,人傷先行型の場合,人傷社としては,弁護士費用特約の利用を嫌がることがあります。
イ(ア) 2日に1回以上のペースで整形外科又は整骨院に通院し,かつ,現実の休業日数が長いなどの理由で休業損害が大きかった場合,自賠責保険基準の損害額が訴訟基準の損害額を上回ることがあります。
ただし,180日間,2日に1回以上のペースで通院した場合,訴訟基準の通院慰謝料は80万円であるのに対し,自賠責保険基準の通院慰謝料は4200円✕180日=75万6000円ですから,休業損害を伴わない限り,理論上は,訴訟基準の損害額が自賠責保険基準の損害額を下回ることはありません。
(イ) 整形外科に月に1,2回しか通わず,それ以外は2日に1回ぐらいのペースで6ヶ月間,整骨院に通院していた場合,訴訟基準では治療期間を制限される可能性が極めて高いのに対し,自賠責保険基準では治療期間を制限されないことがあります。
この場合,例えば,訴訟基準の治療期間が3ヶ月であり,自賠責保険基準の治療期間が6ヶ月の場合,訴訟基準の通院慰謝料は48万円となり,自賠責保険基準の通院慰謝料は75万6000円となりますから,前者が後者を下回ることとなります。
(2) 賠償先行型の場合
ア 自賠責保険に対する被害者請求をしない場合
全く問題なく弁護士費用保険を使えます。
イ 自賠責保険に対する被害者請求をする場合
(ア) 過失相殺「後の」訴訟基準の損害額が自賠責保険からの支払額より多いと見込まれる場合,全く問題なく弁護士費用特約を使えます。
(イ) 自賠責保険は加害者の過失部分に充当されるため,訴訟提起前に自賠責保険に対する被害者請求をした場合,過失相殺「後の」訴訟基準の損害額が自賠責保険からの支払額より多くない限り,請求棄却判決となります。
そのため,賠償先行型としたい場合において,過失相殺「後の」訴訟基準の損害額が自賠責保険からの支払額より少ないと見込まれる場合,自賠責保険の被害者請求をしないまま訴訟提起する必要があると思います。
第4 東京海上日動のトータルアシスト自動車保険の場合
1 東京海上日動のトータルアシスト自動車保険等の約款は,東京海上日動HPの「自動車保険Web約款のご案内」に載っています。
2 東京海上日動のトータルアシスト自動車保険の約款のうち,「2017年4月1日~始期契約」分91頁には,人身傷害補償保険の代位に関して以下の条文があります。
第2条(代位)
(1) 損害が生じたことにより被保険者または保険金請求権者が損害賠償請求権その他の債権(*1)を取得した場合において、当会社がその損害に対して保険金を支払ったときは、その債権は当会社に移転します。ただし、移転するのは、下表の額を限度とします。
① 当会社が損害の額(*2)の全額を保険金として支払った場合は、被保険者または保険金請求権者が取得した債権の全額
② ①以外の場合は、被保険者または保険金請求権者が取得した債権の額から、保険金が支払われていない損害の額(*2)を差し引いた額
(2) (1)の表の②の場合において、当会社に移転せずに被保険者または保険金請求権者が引き続き有する債権は、当会社に移転した債権よりも優先して弁済されるものとします。
(中略)
(*1) 共同不法行為等の場合における連帯債務者相互間の求償権を含みます。
(*2) 人身傷害条項においては、同条項第4項(お支払する保険金)(2)の規定により算定された額を損害の額とします(*4)。ただし、賠償義務者(*5)があり、かつ、判決または裁判上の和解(*6)において、賠償義務者(*5)が負担すべき損害賠償額が算定された場合であって、その算定された額(*7)が社会通念上妥当であると認められるときは、その算定された額(*7)を損害の額とみなします。
(中略)
(*4) この場合において、当会社に移転する債権の額は、(1)の表の額または当会社が支払った保険金の額のいずれか低い額を限度とします。
(*5) 自動車または原動機付自転車の所有、使用または管理に起因して被保険者の生命または身体を害することにより、被保険者またはその父母、配偶者(*8)もしくは子が被る損害に対して、法律上の損害賠償責任を負担する者をいいます。
(*6) 民事訴訟法に定める訴え提起前の和解を含みません。
(*7) 訴訟費用、弁護士報酬、その他権利の保全または行使に必要な手続をするために必要とした費用及び遅延損害金は含みません。
(*8) 婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者および戸籍上の性別が同一であるが婚姻関係と異ならない程度の実質を備える状態にある者を含みます。
3 人傷先行型及び賠償先行型ごとの,被害者の最終的な回収額
(1) 人傷先行型の場合の取扱い
ア 東京海上日動の約款を前提とすると,2条(1)①に基づき,東京海上日動が人身傷害補償保険の基準に基づく保険金を支払った時点で,被保険者である被害者が有する損害賠償請求権の全額が東京海上日動に移転するように読めます。
私の経験では,東京海上日動は,被害者が有する自賠責保険に対する被害者請求権を行使する結果,訴訟提起しなかった被害者の最終的な回収額は,第3で述べた人傷基準差額説と同じになりますから,第3の事例でいえば,800万円となります。
イ 加害者に対する損害賠償請求訴訟を提起して判決を取得し,又は訴訟上の和解を成立させた場合,2条(1)②及び2条(2)が適用される結果,被害者の最終的な回収額は,第3で述べた訴訟基準差額説と同じになりますから,第3の事例でいえば,1000万円となります。
(2) 賠償先行型の場合の取扱い
ア 加害者から訴訟外で示談を成立させた場合,2条(1)①に基づき,人身傷害補償保険の基準に基づく保険金から示談金を控除した後の額が人身傷害補償保険金として支払われます。
そのため,この場合,被害者の最終的な回収額は,第3で述べた人傷基準差額説と同じになりますから,第3の事例でいえば,800万円となります。
イ 加害者に対する損害賠償請求訴訟を提起して判決を取得し,又は訴訟上の和解を成立させた場合,被害者の最終的な回収額は,第3で述べた訴訟基準差額説と同じになりますから,第3の事例でいえば,1000万円となります。
第3の事例を2条(1)②及び2条(2)にあてはめた場合,被保険者が取得した債権600万円から,保険金が支払われていない損害の額200万円(訴訟基準での損害の額1000万円-人身傷害補償保険金800万円)を差し引いた400万円についてだけ,東京海上日動が被保険者に代位して加害者に請求できることとなります。
4 その他の損害保険会社の取扱い
個別に確認したわけではありませんが,東京海上日動と同じような取扱いであると思われます。
2 東京海上日動のトータルアシスト自動車保険の約款のうち,「2017年4月1日~始期契約」分91頁には,人身傷害補償保険の代位に関して以下の条文があります。
第2条(代位)
(1) 損害が生じたことにより被保険者または保険金請求権者が損害賠償請求権その他の債権(*1)を取得した場合において、当会社がその損害に対して保険金を支払ったときは、その債権は当会社に移転します。ただし、移転するのは、下表の額を限度とします。
① 当会社が損害の額(*2)の全額を保険金として支払った場合は、被保険者または保険金請求権者が取得した債権の全額
② ①以外の場合は、被保険者または保険金請求権者が取得した債権の額から、保険金が支払われていない損害の額(*2)を差し引いた額
(2) (1)の表の②の場合において、当会社に移転せずに被保険者または保険金請求権者が引き続き有する債権は、当会社に移転した債権よりも優先して弁済されるものとします。
(中略)
(*1) 共同不法行為等の場合における連帯債務者相互間の求償権を含みます。
(*2) 人身傷害条項においては、同条項第4項(お支払する保険金)(2)の規定により算定された額を損害の額とします(*4)。ただし、賠償義務者(*5)があり、かつ、判決または裁判上の和解(*6)において、賠償義務者(*5)が負担すべき損害賠償額が算定された場合であって、その算定された額(*7)が社会通念上妥当であると認められるときは、その算定された額(*7)を損害の額とみなします。
(中略)
(*4) この場合において、当会社に移転する債権の額は、(1)の表の額または当会社が支払った保険金の額のいずれか低い額を限度とします。
(*5) 自動車または原動機付自転車の所有、使用または管理に起因して被保険者の生命または身体を害することにより、被保険者またはその父母、配偶者(*8)もしくは子が被る損害に対して、法律上の損害賠償責任を負担する者をいいます。
(*6) 民事訴訟法に定める訴え提起前の和解を含みません。
(*7) 訴訟費用、弁護士報酬、その他権利の保全または行使に必要な手続をするために必要とした費用及び遅延損害金は含みません。
(*8) 婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者および戸籍上の性別が同一であるが婚姻関係と異ならない程度の実質を備える状態にある者を含みます。
3 人傷先行型及び賠償先行型ごとの,被害者の最終的な回収額
(1) 人傷先行型の場合の取扱い
ア 東京海上日動の約款を前提とすると,2条(1)①に基づき,東京海上日動が人身傷害補償保険の基準に基づく保険金を支払った時点で,被保険者である被害者が有する損害賠償請求権の全額が東京海上日動に移転するように読めます。
私の経験では,東京海上日動は,被害者が有する自賠責保険に対する被害者請求権を行使する結果,訴訟提起しなかった被害者の最終的な回収額は,第3で述べた人傷基準差額説と同じになりますから,第3の事例でいえば,800万円となります。
イ 加害者に対する損害賠償請求訴訟を提起して判決を取得し,又は訴訟上の和解を成立させた場合,2条(1)②及び2条(2)が適用される結果,被害者の最終的な回収額は,第3で述べた訴訟基準差額説と同じになりますから,第3の事例でいえば,1000万円となります。
(2) 賠償先行型の場合の取扱い
ア 加害者から訴訟外で示談を成立させた場合,2条(1)①に基づき,人身傷害補償保険の基準に基づく保険金から示談金を控除した後の額が人身傷害補償保険金として支払われます。
そのため,この場合,被害者の最終的な回収額は,第3で述べた人傷基準差額説と同じになりますから,第3の事例でいえば,800万円となります。
イ 加害者に対する損害賠償請求訴訟を提起して判決を取得し,又は訴訟上の和解を成立させた場合,被害者の最終的な回収額は,第3で述べた訴訟基準差額説と同じになりますから,第3の事例でいえば,1000万円となります。
第3の事例を2条(1)②及び2条(2)にあてはめた場合,被保険者が取得した債権600万円から,保険金が支払われていない損害の額200万円(訴訟基準での損害の額1000万円-人身傷害補償保険金800万円)を差し引いた400万円についてだけ,東京海上日動が被保険者に代位して加害者に請求できることとなります。
4 その他の損害保険会社の取扱い
個別に確認したわけではありませんが,東京海上日動と同じような取扱いであると思われます。
第5 人身傷害補償保険金を支払った損害保険会社が代位取得した損害賠償請求権の消滅時効
1 損害保険金を支払った保険会社による被保険者(被害者)の加害者に対する損害賠償請求権の代位取得は,保険法25条1項に基づくものであるところ,これは,法律上当然の移転であり,保険金支払の時に移転の効力が生じ,代位によって権利が移転しても,権利の同一性には影響がないと解されます。
2 人身傷害補償保険も,保険事故の発生により被保険者に生じた人身損害を填補することを目的とするものであって,損害保険の性質を有するものと解されるから,人身傷害補償保険金を支払った保険会社による被保険者(被害者)の加害者に対する損害賠償請求権の代位取得についても,人身傷害補償保険金支払の時に,権利の同一性を保つたまま,上記損害賠償請求権が保険会社に移転するのであり,代位が生じたことによって,上記損害賠償請求権の消滅時効の起算点が左右されるものではないと解されます。
3 そのため,人身傷害補償保険金を支払った損害保険会社が代位取得した損害賠償請求権の消滅時効の起算点は,被保険者(被害者)の症状固定日となると解されています(東京地裁平成23年9月20日判決(第一審)及び東京高裁平成24年3月14日判決(控訴審)参照)。
2 人身傷害補償保険も,保険事故の発生により被保険者に生じた人身損害を填補することを目的とするものであって,損害保険の性質を有するものと解されるから,人身傷害補償保険金を支払った保険会社による被保険者(被害者)の加害者に対する損害賠償請求権の代位取得についても,人身傷害補償保険金支払の時に,権利の同一性を保つたまま,上記損害賠償請求権が保険会社に移転するのであり,代位が生じたことによって,上記損害賠償請求権の消滅時効の起算点が左右されるものではないと解されます。
3 そのため,人身傷害補償保険金を支払った損害保険会社が代位取得した損害賠償請求権の消滅時効の起算点は,被保険者(被害者)の症状固定日となると解されています(東京地裁平成23年9月20日判決(第一審)及び東京高裁平成24年3月14日判決(控訴審)参照)。
第6 その他
1 125CC以下のバイクに乗車中に交通事故にあった場合,ファミリーバイク特約に基づく人身傷害補償保険を利用できることがあります(原付2種バイク最強説HPの「本当に激安?ファミリーバイク特約の料金について」参照)。
2 菅藤法律事務所HPの「交通事故被害者は人身傷害保険の利用順序にご注意ください」が参考になります。
3 国税庁HPに「人身傷害補償保険金に係る所得税、相続税及び贈与税の取り扱い等について」(平成11年10月4日付の文書回答事例)が載っています。
4 保険市場HPに「人身傷害保険(人身傷害補償保険)とは 」が載っています。
5 交通事故に関する赤い本講演録2012年53頁ないし66頁に「人身傷害補償保険金の支払による保険代位を巡る諸問題」が載っています。
また,交通事故に関する赤い本講演録2017年123頁ないし132頁に「人身傷害保険金請求を行う場合の訴状作成のチェックポイント(訴訟手続研究部会)」が載っています。
6 交通関係訴訟の実務(著者は東京地裁27民(交通部)の裁判官等)に410頁ないし425頁に「人身傷害補償保険の諸問題」(例えば,人傷保険金の支払により損害賠償請求権を代位取得した保険会社による自賠責保険からの回収と損益相殺)が載っています。
2 菅藤法律事務所HPの「交通事故被害者は人身傷害保険の利用順序にご注意ください」が参考になります。
3 国税庁HPに「人身傷害補償保険金に係る所得税、相続税及び贈与税の取り扱い等について」(平成11年10月4日付の文書回答事例)が載っています。
4 保険市場HPに「人身傷害保険(人身傷害補償保険)とは 」が載っています。
5 交通事故に関する赤い本講演録2012年53頁ないし66頁に「人身傷害補償保険金の支払による保険代位を巡る諸問題」が載っています。
また,交通事故に関する赤い本講演録2017年123頁ないし132頁に「人身傷害保険金請求を行う場合の訴状作成のチェックポイント(訴訟手続研究部会)」が載っています。
6 交通関係訴訟の実務(著者は東京地裁27民(交通部)の裁判官等)に410頁ないし425頁に「人身傷害補償保険の諸問題」(例えば,人傷保険金の支払により損害賠償請求権を代位取得した保険会社による自賠責保険からの回収と損益相殺)が載っています。
1(1) 被害者側の交通事故(検察審査会を含む。)の初回の面談相談は無料であり,債務整理,相続,情報公開請求その他の面談相談は30分3000円(税込み)ですし,交通事故については,無料の電話相談もやっています(事件受任の可能性があるものに限ります。)。
2 予約がある場合の相談時間は平日の午後2時から午後8時までですが,事務局の残業にならないようにするために問い合わせの電話は午後7時30分までにしてほしいですし,私が自分で電話に出るのは午後6時頃までです。
(2) 相談予約の電話番号は「お問い合わせ」に載せています。
2 予約がある場合の相談時間は平日の午後2時から午後8時までですが,事務局の残業にならないようにするために問い合わせの電話は午後7時30分までにしてほしいですし,私が自分で電話に出るのは午後6時頃までです。
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件,弁護士費用,事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。