○以下の記載は,
「被害者等に対する不起訴事件記録の開示について」(平成20年11月19日付の法務省刑事局長依命通達)の該当部分を丸写ししたものです。
○①損害保険料率算出機構,②財団法人交通事故紛争処理センター,③全国共済農業協同組合連合会及び④財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構からの照会については,民事裁判所からなされた不起訴事件記録の文書送付嘱託に関して客観的証拠の送付に応じる場合と同様に取り扱われます。
○
「交通事故事件の刑事記録の入手方法」も参照して下さい。
○目撃者の特定のための情報提供については,裁判所からの調査嘱託が想定されています。
○通達の要旨は,法務省HPの
「不起訴事件記録の開示について」に載ってあります。
1 不起訴事件記録中の客観的証拠の開示
被害者等が被害回復のため提起した民事訴訟が係属している裁判所からの文書送付嘱託に対しても,前記第1,2,(4),アにいう必要性が認められる場合,客観的証拠の送付に応じるのが相当である。
この場合の文書送付嘱託は,被告(被疑者)の申立てによって行われる場合もあるが,民事訴訟において真実を明らかにすることは,被害者等の権利関係の適正な認定に資するものであるから,被害者等である原告の申立てによる場合に準じて取り扱うのが相当である。ただし,民事訴訟記録は,刑事事件記録に比べ,より広く一般人の閲覧が可能である(民事訴訟法第91条及び第9 2条)ので,原告のプライバシー等にかかわる証拠について,原告の同意等を嘱託に応じる条件とすることやその必要性・当事者間の公平性を十分に吟味することも考慮すべきである。
なお,被害者等であると主張している者が,真の被害者等であるか否か慎重に見極める必要があることや,嫌疑なし又は嫌疑不十分等で不起訴とされた事案であっても,民事的な観点から被害者等の救済が図られるべき場合もあり得ることは,前記第1, 2, (1)と同様である。
2 不起訴事件記録中の供述調書の開示
不起訴事件記録中の供述調書について,民事裁判所から文書送付嘱託がなされた場合,開示による弊害を回避しつつも,犯罪被害者等の保護を図るとともに民事訴訟が適切に行われるようにするため,次に掲げる要件をすべて満たす場合には,これを開示するのが相当である。
(1) 民事裁判所から,不起訴事件記録中の特定の者の供述調書について文書送付嘱託がなされた場合であること。
供述調書の開示については,一般に捜査・公判への支障又は関係者の名誉・プライバシーを侵害するおそれがあると認められることから,特にその開示の必要性が高い場合である必要があり,民事裁判所からの文書送付嘱託がなされた場合とすべきである。
(2) 当該供述調書の内容が,当該民事訴訟の結論を直接左右する重要な争点に関するものであって,かつ,その争点に関するほぼ唯一の証拠であるなど,その証明に欠くことができない場合であること。
供述調書を開示することが相当と考えられるのは,当該民事訴訟において当該供述調書が必要不可欠な場合であると思われる。そこで,開示すべき供述調書は,第1に,当該民事訴訟の結論を直接左右する重要な争点に関するものである必要がある。「民事訴訟の結論を直接左右する重要な争点」とは, 例えば,交差点における交通事故において,当事者双方が青色信号を主張している場合の交差点信号機の信号表示状況等のような場合が考えられる。これに対し,民事訴訟において取り調べられた証人の供述の信用性などは,要証事実に対する間接証拠であって,通常は,「重要な争点」には当たらないものと考えられる。第2に,開示すべき供述調書は,その争点に関するほぽ唯一の証拠であるなど,その証明に欠くことのできない場合である必要がある。その争点に関し,他に証拠があり,当該供述調書はこれを単に補強するにすぎないようなときは,これに該当しないと思われる。
(3) 供述者が死亡,所在不明,心身の故障若しくは深刻な記憶喪失等により, 民事訴訟においてその供述を顕出することができない場合であること,又は当該供述調書の内容が供述者の民事裁判所における証言内容と実質的に相反する場合であること。
供述者が民事訴訟において供述することができる場合には,その供述者の供述調書に代替性が認められるので,これを開示する必要はない。しかし, 供述者が死亡,所在不明,心身の故障又は深刻な記憶喪失等により,民事訴訟において,証人尋問又は当事者尋問で供述できない場合には,その供述者の供述調書を利用する必要性が高い。また,いったん当該供述者を民事訴訟において供述させたものの,当該供述者については刑事事件の捜査において取調べを受け,そこで作成された供述調書には,民事訴訟における供述とは実質的に相反する供述をしている場合には,やはり,その供述調書を利用する必要性が高いと考えられる。そこで,これらの場合には,代替性を欠くものとして取り扱うことが適当と考えられる。
なお,当該供述調書の内容が,「供述者の民事訴訟における証言内容と実質的に相反する場合」については,民事裁判所があらかじめ供述調書の内容を了知しているわけではないことを考えると,供述調書の内容と証言内容とが実質的に相反すると判断するについて相当の理由がある場合で足りると思われる。逆に,供述調書の内容と証言内容とが相反していれば開示されたい等の模索的な理由によるものは,前記相当の理由があることを明らかにしたとは言えないので,その点の検討が十分に行えるよう,民事裁判所に対し, 十分な情報の提供を要請することが必要である。
(4) 当該供述調書を開示することによって,捜査・公判への具体的な支障又は関係者の生命・身体の安全を侵害するおそれがなく,かつ,関係者の名誉・プライバシーを侵害するおそれがあるとは認められない場合であること。
上記載(2)及び(3)に該当する特段の必要性が認められる場合であっても,開示による具体的な支障が生じるおそれがあると認められる場合には,開示は相当ではない。なお,供述調書を開示した場合には,今後の他事件における参考人の事情聴取一般に対するものという抽象的な意味では,支障が生じるおそれは常に認められるのであろうが,そうだとしても,捜査・公判への具体的な支障が認められない場合には,原則として,開示して差し支えないと考えられる。
3 供述調書の開示に関する留意事項について
(1) 開示の可否判断のための情報収集
検察官は,通常,前記2,(2)及び(3)の要件に関する情報を有していないことから,民事裁判所から文書送付嘱託がなされた場合において,上記各要件を判断するための具体的な情報が不十分であると認められるときは,民事裁判所に対し,文書送付嘱託に応じるか否かを判断するため,必要な情報の提供を求めることが望ましい。
(2) 開示した供述調書の取扱い
民事裁判所の文書送付嘱託に応じて供述調書を開示する場合には,民事訴訟の当事者においても慎重な取扱いが必要である旨を送付書に明記するなど注意喚起した上で送付する。
(3) マスキング
供述調書を開示する場合であっても,一部の記載について,開示することにより関係者の名誉・プライバシーを侵害するおそれがあるなどの支障があるときは,当該部分にマスキングを行うなどの措置を講じる。
(4) その他
捜査中の事件記録又は公判請求した事件の裁判所不提出記録中の供述証拠については,通常,刑事訴訟法第47条の規定により捜査・公判に対する具体的な支障があると考えられ,原則として開示しない扱いとする。
4 民事裁判所から目撃者の特定のための情報の提供を求められた場合
(1) 目撃者の特定のための情報の提供の必要性
不起訴事件に関して民事訴訟が提起されている場合において,例えば,交通事故の状況を直接目撃した者(以下「目撃者」という。)の証人尋間を実施することが不可欠であるにもかかわらず,民事裁判所及び訴訟当事者において目撃者の特定に関する情報がなく証人尋問を実施することが困難な場合に,裁判所から検察庁に対し,目撃者の特定のための情報の提供を求められる場合がある。
このような場合において,不起訴事件記録中に,当該目撃者の特定に関する情報があり,かつ,民事裁判所から証人尋問のために必要であるとの理由で,調査の嘱託により照会がなされたときは,証人義務が広く一般に課せられており,民事訴訟における真実解明に資することを考慮すると,相当な範囲で調査の嘱託に協力する必要があると考えられる。
(2)そこで,次に掲げる要件をすべて満たす場合には,当該刑事事件の目撃者の特定に関する情報のうち,氏名及び連絡先を民事裁判所に回答するのが相当である。
ア 民事裁判所から,目撃者の特定のための情報について調査の嘱託がなされた場合であること。
イ 目撃者の証言が,当該民事訴訟の結論を直接左右する重要な争点に関するものであって,かつ,その争点に関するほぼ唯一の証拠であるなど,その証明に欠くことができない場合であること。
「重要な争点」の意義については,前記第2, 2, (2)と同様である。
ウ 目撃者の特定のための情報が,民事裁判所及び当事者に知られていないこと。
「民事裁判所及び当事者に知られていない」とは,民事訴訟の当事者において,目撃者の存在を把握しているが氏名が不明の場合,目撃者の氏名は判明しているが連絡先が不明の場合,又は目撃者が存在すると認めるに足りる相当の事情があるが,氏名等が不明の場合などがある。
エ 目撃者の特定のための情報を開示することによって,捜査・公判への具体的な支障又は目撃者の生命・身体の安全を侵害するおそれがなく,かつ, 関係者の名誉・プライバシーを侵害するおそれがないと認められる場合であること。
(3) 情報提供についての留意事項
検察官は,通常,前記(2),イ及びウの要件に関する情報を有していないことから,民事裁判所から調査の嘱託がなされた場合には,上記各要件を判断するための具体的な事情及びこれに該当する目撃者が存在すると認められる相当な理由が不十分であると認められるときは,民事裁判所に対し,調査の嘱託に応じるか否かを判断するための情報の提供を求めることが望ましい。
なお,目撃者の連絡先とは,原則として,住所を回答すれば足りる。
(4) 目撃者の情報の取扱い
目撃者の連絡先等は,本人のプライバシーに属する情報であるので,裁判所に対して回答する場合は,民事訴訟の当事者においても慎重な取扱いが必要である旨を回答書に明記するなど注意喚起した上で送付する。