1 上告の申立て
(1) 上告は,高等裁判所がした第一審又は第二審の判決に対してこれをすることができます(刑訴法405条)。
(2) 高等裁判所が第一審として判決を下すのは,内乱罪(刑法77条),内乱の予備又は陰謀罪(刑法78条)),及び内乱等幇助罪(刑法79条)(裁判所法16条4号)の場合です。
なお,かつては独占禁止法89条ないし91条違反の罪については,東京高等裁判所が第一審として裁判をしていましたものの,平成17年4月27日法律第35号(平成18年1月1日施行)による改正後の独占禁止法では,通常の地方裁判所が第一審として裁判をするようになりました。
(3) 上告の提起期間は,14日です(刑訴法414条・373条)。
(4) 上告をするには,申立書を控訴裁判所に差し出さなければなりません(刑訴法414条・374条)。
(5) 上告の申立てが明らかに上告権の消滅後にされたものである場合を除き,原裁判所は,公判調書の記載の正確性についての異議申立期間の経過後,速やかに訴訟記録を上告裁判所に送付しなければなりません(刑訴規則251条)。
2 上告趣意書
(1) 上告申立人は,最高裁判所の指定した日までに,上告趣意書を上告裁判所に差し出さなければなりません(刑訴法414条・376条1項,刑訴規則252条・266条・240条)。
(2) 上告趣意書には,上告の理由を簡潔に明示しなければなりません(刑訴規則266条・240条)。
(3) 上告裁判所は,上告趣意書を差し出すべき期間経過後に上告趣意書を受け取った場合においても,その遅延がやむを得ない事情に基づくものと認めるときは,これを期間内に差し出されたものとして審判をすることができます(刑訴規則266条・238条)。
(4) 判例と送反する判断をしたことを理由として上告の申立てをした場合には,上告趣意書にその判例を具体的に示さなければなりません(刑訴規則253条)。
なお,「判例を具体的に示す」とは,裁判所名,事件番号,裁判年月日,掲載文書名,掲載箇所等を指示して,その判例を具体的に示すことをいいます(最高裁昭和45年2月4日決定)。
3 上告理由,及び上告受理の申立理由
(1) 高等裁判所がした第一審又は第二審の判決に対しては,以下の上告理由がある場合に限り,上告の申立てをすることができます(刑訴法405条)。
① 憲法の違反があること又は憲法の解釈に誤りがあること。
→ 「憲法の違反」があるとは,原判決及びその訴訟手続における憲法違反をいい,例えば,(a)自白を唯一の証拠として犯罪事実を認定した場合(憲法38条3項違反),及び(b)刑罰法規を遡及して適用し,又は既に無罪判決が確定した事実について有罪判決をした場合(憲法39条)があります。
「憲法の解釈に誤り」があるとは,原判決が違憲の法令を適用したこと,及び原判決の理由に示された憲法の解釈に誤りがあることをいい,例えば,法律,命令,規則又は処分が憲法に適合するかしないかについて示された判断に誤りがあることがあります。
② 最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと
→ 判例と送反する判断をしたことを理由として上告の申立てをした場合には,上告趣意書にその判例を具体的に示さなければなりません(刑訴規則253条)。
③ 最高裁判所の判例がない場合に,大審院若しくは上告裁判所たる高等裁判所の判例又は刑訴法施行後の控訴裁判所たる高等裁判所の判例と相反する判断をしたこと。
(2) 最高裁判所は,上告理由がない場合であっても,法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件については,その判決確定前に限り,自ら上告審としてその事件を受理することができます(刑訴法406条)。
その趣旨は,刑訴法405条2号及び3号によっては,新しい法令の解釈及び判例のない法令の解釈について最高裁判所の見解をただすことが的ないことに鑑み,これらの点に関する判例の出現を期する点にあります。
その関係で,高等裁判所がした第一審又は第二審の判決に対しては,その事件が法令(裁判所の規則を含む。)の解釈に関する重要な事項を含むものと認めるときは,上訴権者は,その判決に対する上告の提起期間内に限り,最高裁判所に上告審として事件を受理すべきことを申し立てることができます(刑訴規則257条本文)。
(3) 判決に影響を及ぼすべき法令の違反がある場合,上告受理の申立てをしなくても,刑訴法411条1項1号に基づく職権破棄を促すことができます。
4 跳躍上告
(1) 跳躍上告には以下の2種類があります。
① 違憲判決に対する跳躍上告(刑訴規則254条1項)
→ 地方裁判所又は簡易裁判所がした第一審判決に対しては,その判決において(a)法律,命令,規則若しくは処分が憲法に違反するものとした判断,又は(b)地方公共団体の条例若しくは規則が法律に違反するものとして判断が不当であることを理由として,最高裁判所に上告をすることができます。
② 合憲判決に対する跳躍上告(刑訴規則254条2項)
→ 検察官は,地方裁判所又は簡易裁判所がした第一審判決に対し,その判決において地方公共団体の条例又は規則が憲法又は法律に適合するものとした判断が不当であることを理由として,最高裁判所に上告をすることができます。
(2) 上訴提起期間経過後の跳躍上告申立ては,控訴提起の有無にかかわらず不適法です(最高裁平成6年10月19日決定)。
5 上告審の公判審理の特則
(1) 上告審は,特別の定めがない限り,控訴審の規定が準用されます(刑訴法414条)。
例えば,被告人が心神喪失の状態にあるときは公判手続を停止する旨を定めた刑訴法314条1項は上告審に準用されます(最高裁平成5年5月31日決定)。
(2) 上告審においては,公判期日に被告人を召喚することを要しません(刑訴法409条)。
そのため,上告審において公判期日を指定すべき場合においても,被告人の移送は不要です(刑訴規則265条)。
(3) 上告審の公判期日では,検察官及び弁護士たる弁護人が,上告趣意書に基づいて弁論します(刑訴法414条・387条ないし389条)。
(4) 最高裁判所は,原判決において法律,命令,規則又は処分が憲法に違反するものとした判断が不当であることを上告の理由とする事件については,原裁判において同種の判断をしていない他のすべての事件に優先して,これを審判しなければなりません(刑訴規則256条)。
6 上告審の裁判
(1) 上告裁判所は,所定の期間内に上告趣意書の提出がなかったり,上告趣意書に記載された上告申立理由が明らかに上告理由に該当しなかったりした場合,決定で上告を棄却しなければなりません(刑訴法414条・386条1項)。
(2) 上告裁判所は,上告趣意書その他の書類によって,上告申立理由がないことが明らかであると認めるときは,弁論を経ないで,判決で上告を棄却することができます(刑訴法408条)。
(3) 上告裁判所は,以下の場合において,原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるときは,判決で上告を棄却します。
① 刑訴法405条各号に規定する事由があり,これが判決に影響を及ぼすことが明らかである場合(刑訴法410条1項)
→ 刑訴法405条各号の規定する事由というのは,(a)憲法違反,(b)憲法解釈の誤り及び(c)判例違反です。
② 判決に影響を及ぼすべき法令の違反がある場合(刑訴法411条1項1号)
③ 刑の量定が著しく不当である場合(刑訴法411条1項2号)
④ 判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認がある場合(刑訴法411条1項3号)
⑤ 再審事由がある場合(刑訴法411条1項4号)
⑥ 判決があった後に刑の廃止若しくは変更があった場合(刑訴法411条1項5号前段)
⑦ 大赦があった場合(刑訴法411条1項5号後段)
(4) 原判決に判例違反のみがある場合において,上告裁判所がその判例を変更して原判決を維持するのを相当と認めるときは,上告棄却判決を下します(刑訴法410条2項)。
この場合において最高裁判所の判例変更を伴うときは,大法廷判決として上告を棄却する(裁判所法10条3号)のであって,例としては,横領罪に関する最高裁昭和31年6月26日判決を変更した上で上告を棄却した,最高裁大法廷平成15年4月23日判決があります。
(5) 判事補の職権の特例等に関する法律1条の2第1項に基づいて最高裁判所から高等裁判所判事の職務を代行させる旨の人事措置が発令されていない判事補が構成に加わった高等裁判所により宣告された原判決は,その宣告手続に法律に従って判決裁判所を構成しなかった違法がありますから,刑訴法411条1号により破棄されます(最高裁平成19年7月10日判決)。
(6) 上告裁判所は,不法に管轄を認めたことを理由として原判決を破棄するときは,判決で事件を管轄控訴裁判所又は管轄第一審裁判所に移送しなければなりません(刑訴法412条)。
(7) 上告裁判所は,管轄違い以外の理由で原判決を破棄するときは,判決で,事件を原裁判所若しくは第一審裁判所に差し戻し,又はこれらと同等の他の裁判所に移送しなければなりません(刑訴法413条本文)。
ただし,上告裁判所は,訴訟記録並びに原裁判所及び第一審裁判所において取り調べた証拠によって,直ちに判決をすることができるものと認めるときは,被告事件について更に判決をすることができます(刑訴法413条ただし書)。
(8) 上告裁判所は,原裁判所が不法に公訴棄却の決定をしなかったときは,決定で上告を棄却しなければなりません(刑訴法414条・403条1項)。
(9) 最高裁は法律審であることを原則としており,原判決の事実認定の当否に深く介入することにはおのずから限界があり,慎重でなければならないのであって,最高裁における事実誤認の主張に関する審査は,原判決の認定が論理則,経験則等に照らして不合理といえるかどうかの観点から行われます(最高裁平成23年7月25日判決。なお,先例として,最高裁平成21年4月14日判決参照)。
(10) 刑訴法414条,386条1項3号により上告を棄却した最高裁判所の決定に対しては,同法414条,386条2項により異義の申立をすることができます(最高裁大法廷昭和30年2月23日決定)(3日以内にする必要があることにつき刑訴法385条2項・428条2項及び3項・422条)。
(11) 上告審「判決」は,①判決の宣告があった日から10日を経過したとき,又は②訂正の判決(刑事訴訟法415条)若しくは訂正の申立てを棄却する決定があったときに確定します(刑事訴訟法418条)。
これに対して上告棄却決定に対し,刑訴法415条に基づく訂正の申立をすることは許されません(最高裁大法廷昭和30年2月23日決定)。
(11) 上告審「判決」は,①判決の宣告があった日から10日を経過したとき,又は②訂正の判決(刑事訴訟法415条)若しくは訂正の申立てを棄却する決定があったときに確定します(刑事訴訟法418条)。
これに対して上告棄却決定に対し,刑訴法415条に基づく訂正の申立をすることは許されません(最高裁大法廷昭和30年2月23日決定)。