上訴及び判決確定後の手続

第0 目次

第1  上訴権者等
第2  控訴
第3  上告
第4  非常上告
第5  勾留及び保釈に対する不服申立て
第6  国選弁護人の報酬及び費用
第7  訴訟費用執行免除の申立て
第8  二重の危険禁止
第9  費用の補償及び刑事補償
第10 執行猶予の取消し

*1 最高裁判所裁判部作成の,刑事書記官実務必携(平成28年4月1日現在)1/22/2を掲載しています。
*2 リーガラスHP「「ある弁護士の獄中体験記」記事一覧(留置所・拘置所・刑務所での生活と出所の記録)」(筆者は44期の山本至 元弁護士(東弁))が載っています。

第1 上訴権者等

1 検察官及び被告人は,第一審判決に対して上訴をすることができます(刑訴法351条1項)。

2 検察官又は被告人以外の者で決定を受けたものは,抗告をすることができます(刑訴法352条)。

3 被告人の法定代理人又は保佐人は,被告人のため上訴をすることができます(刑訴法353条)。
   原審における代理人又は弁護人は,被告人のため上訴をすることができます(刑訴法355条)。
   ただし,これらの者は,被告人の明示した意思に反して上訴をすることはできません(刑訴法356条)。

4 上訴は,裁判の一部に対してこれをすることができます(刑訴法357条前段)。
「裁判の一部」とは,例えば,①併合罪の一部について有罪,他について無罪となったとき,あるいは,②一部について自由刑,他について罰金刑となった場合のように,主文が二つになったときのその主文のいずれかをいい,その主文の有罪あるいは自由刑となった部分だけについても上訴することができます。
   なお,数罪であっても併合罪として一個の刑が言い渡された場合,上訴の関係では不可分となり,これを分離して上訴することができないのであって,一部の事実のみを不服として上訴しても,その効力は全体について生じます。

5 刑事施設にいる被告人が上訴の提起期間内に上訴の申立書を刑事施設の長又はその代理者に差し出したときは,上訴の提起期間内に上訴をしたものとみなされます(刑訴法366条1項)。
   また,被告人が自ら申立書を作ることができないときは,刑事施設の長又はその代理者は,これを代書し,又は所属の職員に代書させなければなりません(刑訴法366条2項)。

第2 控訴

1 控訴の申立て
(1) 控訴は,地方裁判所又は簡易裁判所がした第一審の判決に対してこれをすることができます(刑訴法372条)。
(2)   刑事事件の控訴裁判所は常に高等裁判所となります(裁判所法16条1号)。
(3) 控訴の提起期間は14日です(刑訴法373条)。
(4) 控訴をするには,申立書を第一審裁判所に差し出さなければなりません(刑訴法374条)。
(5) 平成20年6月18日法律第71号(平成20年12月15日施行)による少年法改正の結果,成人の刑事事件であっても,家庭裁判所が刑事事件を取り扱うことがなくなりました。
(6) 控訴の申立てが明らかに控訴権の消滅後にされたものである場合を除き,第一審裁判所は,公判調書の記載の正確性についての異議申立期間の経過後,速やかに訴訟記録及び証拠物を控訴裁判所に送付しなければなりません(刑訴規則235条)。

2 控訴趣意書
(1) 控訴申立人は,控訴裁判所が定める期間内に,控訴趣意書を控訴裁判所に差し出さなければなりません(刑訴法376条,刑訴規則236条)。
(2) 控訴裁判所は,控訴趣意書を差し出すべき期間経過後に控訴趣意書を受け取った場合においても,その遅延がやむを得ない事情に基づくものと認めるときは,これを期間内に差し出されたものとして審判をすることができます(刑訴規則238条)。
(3) 控訴趣意書には,控訴の理由を簡潔に明示しなければなりません(刑訴規則240条)。
(4) 控訴裁判所は,控訴趣意書を受け取ったときは,速やかにその謄本を相手方に送達しなければなりません(刑訴規則242条)。
(5) 控訴の相手方は,控訴趣意書の謄本の送達を受けた日から7日以内に答弁書を控訴裁判所に差し出すことができます(刑訴規則243条1項)。
   なお,検察官が相手方であるときは,重要と認める控訴の理由について答弁書を差し出さなければなりません(刑訴規則243条2項)。
(6) 控訴裁判所は,答弁書を受け取ったときは,速やかにその謄本を控訴申立人に送達しなければなりません(刑訴規則243条5項)。
(7) 裁判長は,合議体の構成員に控訴申立書,控訴趣意書及び答弁書を検閲して報告書を作らせることができます(刑訴規則245条1項)。
   この場合,受命裁判官は,公判期日において,弁論前に,報告書を朗読しなければなりません(刑訴規則245条2項)。

3 控訴理由
(1) 控訴理由の体系
ア 控訴理由の体系は以下のとおりであり,これらの控訴理由を理由とするときに限り,控訴することができます(刑訴法384条)。
① 訴訟手続の法令違反(刑訴法377条ないし379条)
・ 後述するとおり,絶対的控訴理由(刑訴法377条及び379条)及び相対的控訴理由(刑訴法379条)があります。
② 法令適用の誤り(刑訴法380条)
・ 法令適用の誤りは,その誤りが明らかに判決に影響を及ぼす場合に限り控訴理由となりますところ,例としては,認定事実に対する実体法の適用の誤りがあります。
③ 量刑不当(刑訴法381条,382条の2)
・ 量刑不当を理由として控訴の申立てをした場合,控訴趣意書に,訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現れている事実であって量刑不当であることを信じるに足りるものを援用しなければなりません(刑訴法381条)。
④ 事実誤認(刑訴法382条,382条の2)
・ 事実誤認を理由として控訴の申立てをした場合,控訴趣意書に,訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現れている事実であって明らかに判決に影響を及ぼすべき誤認があることを信ずるに足りるものを援用しなければなりません。
⑤ 再審請求理由の存在(刑訴法383条1項)
・ 再審請求理由は,刑訴法435条所定事由のことです。
⑥ 判決後の刑の廃止・変更,大赦(刑訴法383条2項)
・ 刑の変更とは,刑法6条の刑の変更をいいます。
イ やむを得ない事由によって第一審の弁論終結前に取調べを請求することができなかった証拠によって証明することのできる事実であって量刑不当又は事実誤認があることを信ずるに足りるものは,訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現れている事実以外の事実であっても,控訴趣意書にこれを援用することができます(刑訴法382条の2第1項)。
第一審の弁論終結後判決前に生じた事実であって量刑不当又は事実誤認があることを信ずるに足りるものについても同様です(刑訴法382条の2第2項)。
   これらの場合,控訴趣意書に,その事実を疎明する思料を添付しなければなりません(刑訴法382条の2第3項前段)し,第一審の弁論終結前に生じた事実については,やむを得ない事由によってその証拠の取調を請求することができなかった旨を疎明する資料をも添付しなければなりません(刑訴法382条の2第3項後段)。
ウ 適法な証拠調べを経ていない証拠を他の証拠と総合して犯罪事実を認定した違法があっても,その証拠調べを経ない証拠を除外してもその犯罪事実を認めることができる場合には、右の違法は判決破棄の理由になりません(最高裁昭和29年6月19日決定。なお,先例として,最高裁昭和26年3月6日判決)。
エ 最高裁平成24年2月13日判決は,控訴審における事実誤認の審査の方法について以下のとおり判示しています(ナンバリング及び改行は筆者が行いました。)。
① 刑訴法は控訴審の性格を原則として事後審としており,控訴審は,第1審と同じ立場で事件そのものを審理するのではなく,当事者の訴訟活動を基礎として形成された第1審判決を対象とし,これに事後的な審査を加えるべきものである。
   第1審において,直接主義・口頭主義の原則が採られ,争点に関する証人を直接調べ,その際の証言態度等も踏まえて供述の信用性が判断され,それらを総合して事実認定が行われることが予定されていることに鑑みると,控訴審における事実誤認の審査は,第1審判決が行った証拠の信用性評価や証拠の総合判断が論理則,経験則等に照らして不合理といえるかという観点から行うべきものであって,刑訴法382条の事実誤認とは,第1審判決の事実認定が論理則,経験則等に照らして不合理であることをいうものと解するのが相当である。
   したがって,控訴審が第1審判決に事実誤認があるというためには,第1審判決の事実認定が論理則,経験則等に照らして不合理であることを具体的に示すことが必要であるというべきである。
② このことは,裁判員制度の導入を契機として,第1審において直接主義・口頭主義が徹底された状況においては,より強く妥当する。
(2) 訴訟手続の法令違反
ア 訴訟手続の法令違反のうち,絶対的控訴理由は以下のとおりです。
① 法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと(刑訴法377条1項)
→ 例えば,合議体によるべき事件を一人の裁判官が審判した場合があります。
② 法令により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと(刑訴法377条2項)
→ 例えば,除斥原因のある裁判官が判決に関与した場合があります。
③ 審判の公開に関する規定に違反したこと(刑訴法377条3項)
④ 不法に管轄又は管轄違いを認めたこと(刑訴法378条1項)
→ 例えば,事物管轄,土地管轄(刑訴法329条,331条)に違反した場合があります。
⑤ 不法に公訴を受理し,又はこれを棄却したこと(刑訴法378条2項)
⑥ 審判の請求を受けた事件について判決せず,又は審判の請求を受けない事件について判決したこと(刑訴法378条3項)
→ 「審判の請求を受けた事件」とは,(a)公訴の提起のあった事件又は(b)準起訴手続で審判に付された事件をいいます。
   「判決せず」の例としては,併合罪として起訴された数個の犯罪事実の一部について,証明がなかったのに,主文において無罪の言渡しをしなかった場合があります(札幌高裁昭和58年5月24日判決参照)。
   「審判の請求を受けない事件について判決した」の例としては,公訴事実と同一性のない別の事実について審判した場合があります(最高裁昭和29年8月20日判決,最高裁昭和33年2月21日判決参照)。
⑦ 判決に理由を付せず,又は理由に食い違いがあること(理由不備)(刑訴法378条4項)
→ 判決に理由を付さないというのは,全然理由を付さない場合,及び一部分だけ理由を各場合の両方を含みます。
   また,理由に食い違いがあるというのは,主文と理由との間,又は理由の内部において食い違いがあることをいうのであって,積極的な矛盾の他に,判決摘示の証拠によっては判示事実の認定ができないような場合を含みます(最高裁昭和24年6月18日判決,最高裁昭和25年2月28日判決参照)。
   しかし,判決に摘示されていない証拠と理由との食い違いは事実誤認の問題となります。
イ 刑訴法377条所定の控訴理由を主張する場合,控訴趣意書に,その事由があることの充分な証明をすることができる旨の検察官又は弁護人の保証書を添付しなければなりません。
ウ その他の訴訟手続の法令違反は,相対的控訴理由として,判決に影響を及ぼすことが明らかな場合に限り,控訴理由となります(刑訴法379条)。
   この場合,控訴趣意書に,訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現れている事実であって明らかに判決に影響を及ぼすべき法令の違反があることを信ずるに足りるものを援用しなければなりません。
エ 「訴訟手続」とは,第一審判決の直接の基礎となった審判手続をいい,判決手続も含まれますものの,捜査,勾留,勾引,略式手続,更新前の公判手続は含まれません。
   「法令違反」とは,その結果訴訟手続が無効とされる場合をいいます。
   「判決に影響を及ぼす」とは,その違反がなかったならば現になされた第一審判決と異なる判決がなされたであろうという蓋然性のあることをいいます(最高裁大法廷昭和30年6月22日判決)。

4 被告人の移送
(1) 被告人が刑事施設に収容されている場合において公判期日を指定すべきときは,控訴裁判所は,その旨を対応する検察庁の検察官に通知しなければなりません(刑訴規則244条1項)。
   この場合,検察官は,速やかに被告人を控訴裁判所の所在地の刑事施設に移さなければなりません(刑訴規則244条2項)。
(2) 被告人が控訴裁判所の所在地の刑事施設に移されたときは,検察官は,速やかに被告人の移された刑事施設を控訴裁判所に通知しなければなりません(刑訴規則244条3項)。

5 控訴審の公判審理の特則
(1) 控訴審の公判審理については,刑訴法に特別の定めがある場合を除き,第一審の公判に関する規定が準用されます(刑訴法404条,刑訴規則250条)。
   例えば,①被告人が心神喪失の状態にあるときは公判手続を停止するという刑訴法314条1項,及び②開廷後裁判官が変わったときは,公判手続を更新しなければならないという刑訴法315条は控訴審に準用されます(①につき最高裁昭和53年2月28日判決,②につき最高裁昭和30年12月26日判決)。
(2) 控訴審では,弁護士以外の者を弁護人に選任することができません(刑訴法387条)。
(3) 控訴審では,被告人のためにする弁論は,弁護人でなければ,これをすることができません(刑訴法388条)。
(4) 控訴審の公判期日では,検察官及び弁護人は,控訴趣意書に基づいて弁論をしなければなりません(刑訴法389条)。
(5) 控訴審においては,裁判所の出頭命令がない限り,控訴人が公判期日に出頭することを要しません(刑訴法390条)。
(6) 控訴裁判所は,控訴趣意書に包含された事項は,これを調査しなければなりません(刑訴法392条1項)。
   また,控訴裁判所は,控訴趣意書に包含されない事項であっても,第一審の弁論終結後の事情を除き,職権で控訴理由に該当する事由を調査することができます(刑訴法392条2項)。
(7) 控訴裁判所は,控訴趣意書に包含された事項等について調査をするについて必要があるときは,検察官,被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で事実の取調べをすることができます(刑訴法393条1項本文)。
   ただし,刑訴法382条の2の疎明があったものについては,量刑不当又は事実誤認に該当する場合に限り,これを取り調べなければなりません(刑訴法393条1項ただし書)。
(8) 控訴裁判所は,必要があると認めるときは,職権で,第一審判決後の刑の量定に影響を及ぼすべき情状について取調べをすることができます(刑訴法393条2項)。
「第一審判決後の刑の量定に影響を及ぼすべき情状」の典型例は,第一審判決後に成立した被害者との示談でありますところ,この事実を取り調べるかどうかは控訴裁判所の裁量となるのであって,控訴人としては,控訴裁判所の職権発動を求めることしかできません。
(9) 控訴審において事実の取調べをした場合,検察官及び弁護人は,その結果に基づいて弁論をすることができます(刑訴法393条4項)。
(10) 第一審において証拠とすることができた証拠は,控訴審においてもこれを証拠とすることができます(刑訴法394条)。
(11) 第一審における証拠とすることの同意を控訴審に至って撤回することは,原則として許されません(最高裁昭和37年12月25日判決)。

6 控訴審の裁判
(1) 控訴裁判所は,所定の期間内に控訴趣意書の提出がなかったり,控訴趣意書に記載された控訴申立理由が明らかに控訴理由に該当しなかったりした場合,決定で控訴を棄却しなければなりません(刑訴法386条1項)。
   ただし,控訴棄却決定に対しては即時抗告をすることができます(刑訴法386条2項)。
(2) 控訴裁判所は,控訴の申立てが法令上の方式に違反し,又は控訴権の消滅後にされたものであるときは,判決で控訴を棄却しなければなりません(刑訴法395条)。
(3) 控訴裁判所は,控訴理由に該当する事由がないときは,判決で控訴を棄却しなければなりません(刑訴法396条)。
(4) 控訴裁判所は,控訴理由に該当する事由があるときは,判決で原判決を破棄しなければなりません(刑訴法397条1項)。
(5) 控訴裁判所は,第一審判決後の刑の量定に影響を及ぼすべき情状を取り調べた結果,原判決を破棄しなければ明らかに正義に反すると認めるときは,判決で原判決を破棄することができます(刑訴法397条2項)。
(6) 控訴裁判所は,不法に管轄違いを言い渡し,又は公訴を棄却したことを理由として原判決を破棄するときは,判決で事件を原裁判所に差し戻さなければなりません(刑訴法398条)。
(7) 控訴裁判所は,不法に管轄を認めたことを理由として原判決を破棄するときは,判決で事件を管轄第一審裁判所に移送しなければなりません(刑訴法399条本文)。
(8) 控訴裁判所は,管轄違い等以外の理由で原判決を破棄するときは,判決で,事件を原裁判所に差し戻し,又は原裁判所と同等の他の裁判所に移送しなければなりません(刑訴法400条本文)。
   ただし,控訴裁判所は,訴訟記録並びに控訴裁判所において取り調べた証拠によって,直ちに判決をすることができるものと認めるときは,被告事件について更に判決をすることができます(刑訴法400条ただし書)。
(9) 被告人が控訴をし,又は被告人のため控訴をした事件については,原判決の刑より重い刑を言い渡すことができません(刑訴法402条)。
(10) 控訴裁判所は,原裁判所が不法に公訴棄却の決定をしなかったときは,決定で公訴を棄却しなければなりません(刑訴法403条1項)。

第3 上告

1 上告の申立て
(1) 上告は,高等裁判所がした第一審又は第二審の判決に対してこれをすることができます(刑訴法405条)。
(2) 高等裁判所が第一審として判決を下すのは,内乱罪(刑法77条),内乱の予備又は陰謀罪(刑法78条)),及び内乱等幇助罪(刑法79条)(裁判所法16条4号)の場合です。
   なお,かつては独占禁止法89条ないし91条違反の罪については,東京高等裁判所が第一審として裁判をしていましたものの,平成17年4月27日法律第35号(平成18年1月1日施行)による改正後の独占禁止法では,通常の地方裁判所が第一審として裁判をするようになりました。
(3) 上告の提起期間は,14日です(刑訴法414条・373条)。
(4) 上告をするには,申立書を控訴裁判所に差し出さなければなりません(刑訴法414条・374条)。
(5) 上告の申立てが明らかに上告権の消滅後にされたものである場合を除き,原裁判所は,公判調書の記載の正確性についての異議申立期間の経過後,速やかに訴訟記録を上告裁判所に送付しなければなりません(刑訴規則251条)。

2 上告趣意書
(1) 上告申立人は,最高裁判所の指定した日までに,上告趣意書を上告裁判所に差し出さなければなりません(刑訴法414条・376条1項,刑訴規則252条・266条・240条)。
(2) 上告趣意書には,上告の理由を簡潔に明示しなければなりません(刑訴規則266条・240条)。
(3) 上告裁判所は,上告趣意書を差し出すべき期間経過後に上告趣意書を受け取った場合においても,その遅延がやむを得ない事情に基づくものと認めるときは,これを期間内に差し出されたものとして審判をすることができます(刑訴規則266条・238条)。
(4) 判例と送反する判断をしたことを理由として上告の申立てをした場合には,上告趣意書にその判例を具体的に示さなければなりません(刑訴規則253条)。
   なお,「判例を具体的に示す」とは,裁判所名,事件番号,裁判年月日,掲載文書名,掲載箇所等を指示して,その判例を具体的に示すことをいいます(最高裁昭和45年2月4日決定)。

3 上告理由,及び上告受理の申立理由
(1) 高等裁判所がした第一審又は第二審の判決に対しては,以下の上告理由がある場合に限り,上告の申立てをすることができます(刑訴法405条)。
① 憲法の違反があること又は憲法の解釈に誤りがあること。
→ 「憲法の違反」があるとは,原判決及びその訴訟手続における憲法違反をいい,例えば,(a)自白を唯一の証拠として犯罪事実を認定した場合(憲法38条3項違反),及び(b)刑罰法規を遡及して適用し,又は既に無罪判決が確定した事実について有罪判決をした場合(憲法39条)があります。
「憲法の解釈に誤り」があるとは,原判決が違憲の法令を適用したこと,及び原判決の理由に示された憲法の解釈に誤りがあることをいい,例えば,法律,命令,規則又は処分が憲法に適合するかしないかについて示された判断に誤りがあることがあります。
② 最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと
→ 判例と送反する判断をしたことを理由として上告の申立てをした場合には,上告趣意書にその判例を具体的に示さなければなりません(刑訴規則253条)。
③ 最高裁判所の判例がない場合に,大審院若しくは上告裁判所たる高等裁判所の判例又は刑訴法施行後の控訴裁判所たる高等裁判所の判例と相反する判断をしたこと。
(2) 最高裁判所は,上告理由がない場合であっても,法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件については,その判決確定前に限り,自ら上告審としてその事件を受理することができます(刑訴法406条)。
   その趣旨は,刑訴法405条2号及び3号によっては,新しい法令の解釈及び判例のない法令の解釈について最高裁判所の見解をただすことが的ないことに鑑み,これらの点に関する判例の出現を期する点にあります。
   その関係で,高等裁判所がした第一審又は第二審の判決に対しては,その事件が法令(裁判所の規則を含む。)の解釈に関する重要な事項を含むものと認めるときは,上訴権者は,その判決に対する上告の提起期間内に限り,最高裁判所に上告審として事件を受理すべきことを申し立てることができます(刑訴規則257条本文)。
(3) 判決に影響を及ぼすべき法令の違反がある場合,上告受理の申立てをしなくても,刑訴法411条1項1号に基づく職権破棄を促すことができます。

4 跳躍上告
(1) 跳躍上告には以下の2種類があります。
① 違憲判決に対する跳躍上告(刑訴規則254条1項)
→ 地方裁判所又は簡易裁判所がした第一審判決に対しては,その判決において(a)法律,命令,規則若しくは処分が憲法に違反するものとした判断,又は(b)地方公共団体の条例若しくは規則が法律に違反するものとして判断が不当であることを理由として,最高裁判所に上告をすることができます。
② 合憲判決に対する跳躍上告(刑訴規則254条2項)
→ 検察官は,地方裁判所又は簡易裁判所がした第一審判決に対し,その判決において地方公共団体の条例又は規則が憲法又は法律に適合するものとした判断が不当であることを理由として,最高裁判所に上告をすることができます。
(2) 上訴提起期間経過後の跳躍上告申立ては,控訴提起の有無にかかわらず不適法です(最高裁平成6年10月19日決定)。

5 上告審の公判審理の特則
(1) 上告審は,特別の定めがない限り,控訴審の規定が準用されます(刑訴法414条)。
   例えば,被告人が心神喪失の状態にあるときは公判手続を停止する旨を定めた刑訴法314条1項は上告審に準用されます(最高裁平成5年5月31日決定)。
(2) 上告審においては,公判期日に被告人を召喚することを要しません(刑訴法409条)。
   そのため,上告審において公判期日を指定すべき場合においても,被告人の移送は不要です(刑訴規則265条)。
(3) 上告審の公判期日では,検察官及び弁護士たる弁護人が,上告趣意書に基づいて弁論します(刑訴法414条・387条ないし389条)。
(4) 最高裁判所は,原判決において法律,命令,規則又は処分が憲法に違反するものとした判断が不当であることを上告の理由とする事件については,原裁判において同種の判断をしていない他のすべての事件に優先して,これを審判しなければなりません(刑訴規則256条)。

6 上告審の裁判
(1) 上告裁判所は,所定の期間内に上告趣意書の提出がなかったり,上告趣意書に記載された上告申立理由が明らかに上告理由に該当しなかったりした場合,決定で上告を棄却しなければなりません(刑訴法414条・386条1項)。
(2) 上告裁判所は,上告趣意書その他の書類によって,上告申立理由がないことが明らかであると認めるときは,弁論を経ないで,判決で上告を棄却することができます(刑訴法408条)。
(3) 上告裁判所は,以下の場合において,原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるときは,判決で上告を棄却します。
① 刑訴法405条各号に規定する事由があり,これが判決に影響を及ぼすことが明らかである場合(刑訴法410条1項)
→ 刑訴法405条各号の規定する事由というのは,(a)憲法違反,(b)憲法解釈の誤り及び(c)判例違反です。
② 判決に影響を及ぼすべき法令の違反がある場合(刑訴法411条1項1号)
③ 刑の量定が著しく不当である場合(刑訴法411条1項2号)
④ 判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認がある場合(刑訴法411条1項3号)
⑤ 再審事由がある場合(刑訴法411条1項4号)
⑥ 判決があった後に刑の廃止若しくは変更があった場合(刑訴法411条1項5号前段)
⑦ 大赦があった場合(刑訴法411条1項5号後段)
(4) 原判決に判例違反のみがある場合において,上告裁判所がその判例を変更して原判決を維持するのを相当と認めるときは,上告棄却判決を下します(刑訴法410条2項)。
   この場合において最高裁判所の判例変更を伴うときは,大法廷判決として上告を棄却する(裁判所法10条3号)のであって,例としては,横領罪に関する最高裁昭和31年6月26日判決を変更した上で上告を棄却した,最高裁大法廷平成15年4月23日判決があります。
(5)  判事補の職権の特例等に関する法律1条の2第1項に基づいて最高裁判所から高等裁判所判事の職務を代行させる旨の人事措置が発令されていない判事補が構成に加わった高等裁判所により宣告された原判決は,その宣告手続に法律に従って判決裁判所を構成しなかった違法がありますから,刑訴法411条1号により破棄されます(最高裁平成19年7月10日判決)。
(6) 上告裁判所は,不法に管轄を認めたことを理由として原判決を破棄するときは,判決で事件を管轄控訴裁判所又は管轄第一審裁判所に移送しなければなりません(刑訴法412条)。
(7) 上告裁判所は,管轄違い以外の理由で原判決を破棄するときは,判決で,事件を原裁判所若しくは第一審裁判所に差し戻し,又はこれらと同等の他の裁判所に移送しなければなりません(刑訴法413条本文)。
   ただし,上告裁判所は,訴訟記録並びに原裁判所及び第一審裁判所において取り調べた証拠によって,直ちに判決をすることができるものと認めるときは,被告事件について更に判決をすることができます(刑訴法413条ただし書)。
(8) 上告裁判所は,原裁判所が不法に公訴棄却の決定をしなかったときは,決定で上告を棄却しなければなりません(刑訴法414条・403条1項)。
(9) 最高裁は法律審であることを原則としており,原判決の事実認定の当否に深く介入することにはおのずから限界があり,慎重でなければならないのであって,最高裁における事実誤認の主張に関する審査は,原判決の認定が論理則,経験則等に照らして不合理といえるかどうかの観点から行われます(最高裁平成23年7月25日判決。なお,先例として,最高裁平成21年4月14日判決参照)。
(10)  刑訴法414条,386条1項3号により上告を棄却した最高裁判所の決定に対しては,同法414条,386条2項により異義の申立をすることができます(最高裁大法廷昭和30年2月23日決定)(3日以内にする必要があることにつき刑訴法385条2項・428条2項及び3項・422条)。
(11) 上告審「判決」は,①判決の宣告があった日から10日を経過したとき,又は②訂正の判決(刑事訴訟法415条)若しくは訂正の申立てを棄却する決定があったときに確定します(刑事訴訟法418条)。
   これに対して上告棄却決定に対し,刑訴法415条に基づく訂正の申立をすることは許されません(最高裁大法廷昭和30年2月23日決定)。 
上告事件の処理についての留意点
要急事案の処理についての留意点
特別抗告事件の処理についての留意点

第4 非常上告

1 検事総長は,判決が確定した後その事件の審判が法令に違反したことを発見したときは,最高裁判所に非常上告をすることができます(刑訴法454条)。
2 非常上告をするには,その理由を記載した申立書を最高裁判所に差し出さなければなりません(刑訴法455条)。

3 公判期日には,検察官は,申立書に基づいて陳述しなければなりません(刑訴法456条)。

4 非常上告が理由のないときは,判決でこれを棄却しなければなりません(刑訴法457条)。

5 非常上告が理由のあるときは,以下の区分に従い,判決をしなければなりません(刑訴法458条)。
① 原判決が法令に違反したときは,その違反した部分を破棄します。
   ただし,原判決が被告人のため不利益であるときは,これを破棄して,被告事件について更に判決をします。
② 訴訟手続が法令に違反したときは,その違反した手続を破棄します。

6 非常上告の判決は,被告人について更に判決をした場合を除き,その効力を被告人に及ぼしません(刑訴法459条)。

7 非常上告は,法令の適用の誤りを正し,もって,法令の解釈適用の統一を目的とするものであって,個々の事件における事実認定の誤りを是正して被告人を救済することを目的とするものではありません。
   そのため,実体法たると手続法たるとを問わず,その法令の解釈に誤りがあるというのでなく,単にその法令適用の前提事実の誤りのため当然法令違反の結果を来す場合のごときは,法令の解釈適用を統一する目的に少しも役立たないから,刑訴454条の「事件の審判が法令に違反したこと」に当たりません(最高裁大法廷昭和27年4月9日判決)。

第5 勾留及び保釈に対する不服申立て

1 勾留及び保釈に対する不服申立ての宛先は以下のとおりです。
① 起訴から第1審における第1回公判期日前まで
   裁判官(刑訴法280条1項)が勾留していますから,不服申立ては,地裁への準抗告(刑訴法429条1項2号)→最高裁への特別抗告(刑訴法433条)となります。
② 第1審の第1回公判期日から高裁に記録が到着するまで
   第1審の裁判所が勾留していますから,不服申立ては,高裁への通常抗告(刑訴法419条ないし427条)→最高裁への特別抗告(刑訴法433条)となります。
③ 高裁に記録が到着してから最高裁に記録が到着するまで
   控訴審の裁判所が勾留していますから,不服申立ては,別の高裁の合議体への異議申立て(刑訴法428条2項及び3項)→最高裁への特別抗告(刑訴法433条)となります。
④ 最高裁に記録到着後
   上告審の裁判所が勾留していますから,不服申立ては,最高裁への異議申立てとなります(最高裁昭和52年4月4日決定)。

2 ①上訴の提起期間内の事件でまだ上訴のないもの,及び②上訴中の事件で訴訟記録が上訴裁判所に到達していないものについては,原裁判所が勾留及び保釈に関する決定をします(刑訴法97条1項及び2項,刑訴規則92条1項及び2項)。

3 勾留に対しては,勾留理由開示があったときは,その開示の請求をした者も,被告人のため上訴をすることができます(刑訴法354条前段)。

4 保釈請求却下決定に関して特別抗告が申し立てられた後に,被告人が保釈により釈放された場合には,右抗告は,その理由について裁判をする実益がありません(最高裁昭和29年1月19日決定)。

5 保釈を許す決定に対する抗告事件において,抗告裁判所は,原決定が違法であるかどうかにとどまらず,それが不当であるかどうかをも審査することができます(最高裁昭和29年7月7日決定)。

6 保釈請求却下決定に対する準抗告申立棄却決定の謄本が,被告人と申立人である弁護人との双方に日を異にして送達された場合における抗告申立の期間は,被告人本人に送達された日から起算されます(最高裁昭和43年6月19日決定)。

7 最高裁判所がした裁判であっても,判決に対し刑訴法415条は訂正の申立を認め,また,上告棄却の決定に対し同法414条,3826条2項による異議の申立が認められている(最高裁大法廷昭和30年2月23日決定,最高裁昭和36年7月5日決定)とのバランスから,最高裁判所の保釈保証金没取決定に対しても,刑訴法428条準用により異議の申立てができます(最高裁昭和52年4月4日決定)。

8 勾留の裁判に対する異議申立てが棄却され,右棄却決定がこれに対する特別抗告も棄却されて確定した場合においては,右異議申立てと同一の論拠に基づいて勾留を違法として取り消すことはできません(最高裁平成12年9月27日決定)。

第6 国選弁護人の報酬及び費用

1 憲法37条3項後段は,刑事被告人に資格を有する弁護人を国が付することを保障していますから,刑訴法38条1項が,被告人の国選弁護人は弁護士から選任すべきことを定めるのは,憲法の要請を受けたものです。
   ただし,国選弁護人の報酬及び費用を何人に負担させるかという問題は,憲法37条3項後段が関知するところではありません(最高裁大法廷昭和25年6月7日判決参照)。

2 国選弁護人は,裁判所が解任しない限りその地位を失うものではありませんから,国選弁護人が辞任の申出をした場合であっても,裁判所が辞任の申出について正当な理由があると認めて解任しない限り,弁護人の地位を失うものではありません(最高裁昭和54年7月24日判決)。
   なお,国選弁護人の解任理由を定めた,平成16年5月28日法律第62号による改正後の刑訴法38条の3は,平成18年10月2日に施行されました。

3 刑事訴訟費用の主たるものは,刑事事件における被疑者国選弁護人及び被告人国選弁護人の報酬及び費用のことです(総合法律支援法5条及び39条2項参照)。

4 報酬及び費用が事件ごとに定められる契約を締結している国選弁護人等契約弁護士(=普通国選弁護人契約弁護士)の場合,法テラスが査定した報酬及び費用が訴訟費用となります(総合法律支援法39条2項1号)。
   そのため,①刑訴法38条2項及び②刑事訴訟費用等に関する法律(=刑訴費用法)2条3号の適用が排除されています(総合法律支援法39条1項)。

5 司法支援センター(=法テラス)との一般国選弁護人契約(=基本契約)には,以下の2種類があります。
① 普通国選弁護人契約(国選弁護人の事務に関する契約約款2条4号)
→ 事件ごとに報酬及び費用が定まる契約のことであり,基本契約の締結を希望するすべての弁護士が結びます。
② 一括国選弁護人契約(国選弁護人の事務に関する契約約款2条6号)
→ 複数の即決被告事件について一括して,報酬及び費用が定まる契約のことであり,被告人段階で即決裁判を一度に複数件を受任する意思のある弁護士が,普通国選弁護人契約とは別に結ぶものです。

6 国選弁護人に支給される報酬及び費用は,国選弁護人の事務に関する契約約款別紙「報酬及び費用の算定基準」において,算定基準が詳細に定められています(国選弁護人の事務に関する契約約款14条)。

7 総合法律支援法(平成16年6月2日法律第74号)に基づき,司法支援センター(=法テラス)が平成18年10月2日に業務を開始する以前は,裁判所が,刑訴法38条2項に基づき,国選弁護人の旅費,日当,宿泊料及び報酬を定めていました。
   そして,国選弁護人の旅費,報酬等は,裁判所が相当と認めるところによるものとされ(刑訴費用法8条),刑訴法に準拠する不服申立ては許されませんでした(最高裁昭和63年11月29日決定)。

第7 訴訟費用執行免除の申立て

1 被告人に訴訟費用を負担させるときには,主文でその言渡しをすることになっています(刑訴法185条前段)から,訴訟費用について言渡しがない場合,訴訟費用は被告人の負担にはなりません。

2 訴訟費用については,貧困のためこれを完納することができないときは,判決確定後20日以内に訴訟費用の執行免除の申立てをした上で,裁判所から訴訟費用の執行免除決定をもらえれば,納付する必要がなくなります(刑訴法500条,刑訴規則295条ないし295条の5)。
   ただし,判決が確定した時点で国選弁護人の選任の効力が失われていますから,訴訟費用の執行免除の申立ては国選弁護人の義務ではありません。

3 訴訟費用の執行免除の申立てについてした決定に対しては,即時抗告をすることができ(刑訴法504条),裁判の執行が停止されます(刑訴法425条)。
   ただし,即時抗告の提起期間は3日だけです(刑訴法422条)。

4 訴訟費用は,罰金と同様に,検察官の命令によって執行されますところ,検察官の命令は,執行力のある債務名義と同一の効力を有し(刑訴法490条1項),強制執行手続によることとなります(刑訴法490条2項)。

第8 二重の危険禁止

1 何人も,既に無罪とされた行為について刑事上の責任を問われることはありません(憲法39条前段)し,同一の犯罪について,重ねて刑事上の責任を問われることがない(憲法39条後段)のであって,これを二重の危険禁止の法理といいます。

2 憲法39条の「既に無罪とされた行為」とは,刑事訴訟における確定裁判によって無罪の判断を受けた行為をいいます(最高裁大法廷昭和40年2月28日判決。なお,先例として,最高裁大法廷昭和26年12月5日判決)。
   よって,検察官がいったん不起訴にした犯罪を後日になって起訴したとしても憲法39条に違反しません(最高裁昭和32年5月24日判決)。

3 憲法39条後段において同一の犯罪について重ねて刑事上の責任を問われないというのは,同じ犯行について二度以上罪の有無に関する裁判を受ける危険にさらされるべきものではないという根本思想に基づくものであり,その危険とは,同一の事件においては訴訟手続の開始から終末に至るまでの一つの継続状態と見ることが相当であることにかんがみ,一審の手続も,また,上告審のそれも,同一の事件においては継続する一つの危険の各部分であるに過ぎません。
   よって,同じ事件においては,いかなる段階においても唯一の危険があるのみであって,そこには二重の危険は存在しないこととなります。
   そのため,下級審における無罪又は有罪判決に対し,検察官が上訴をなし有罪又はより重き刑の判決を求めることは,被告人を二重の危険にさらすものでもなく,従ってまた憲法39条に違反して重ねて刑事上の責任を問うことではないこととなります(最高裁大法廷昭和24年11月8日判決,最高裁昭和33年1月23日判決参照)。

第9 費用の補償及び刑事補償

1 費用の補償
(1)   無罪の判決が確定したときは,国は,当該事件の被告人であった者に対し,原則として,その裁判に要した費用の補償をしてくれます(刑訴法188条の2)。
(2) 費用の補償は,被告人であった者の請求により,無罪の判決をした裁判所が,決定をもって行います(刑訴法188条の3第1項)。
(3) 費用の補償の請求は,無罪の判決が確定した後6ヶ月以内にしなければなりません(刑訴法188条の3第2項)。
(4) 補償される費用の範囲は以下のものに限られます(刑訴法188条の6)。
① 被告人若しくは被告人であった者又はそれらの者の弁護人であった者が公判準備及び公判期日に出頭するに要した旅費,日当及び宿泊料
② 弁護人であった者に対する報酬

2 刑事補償
(1) ①未決の抑留又は拘禁を受けた後に無罪の裁判を受けたり,②再審等の手続において無罪の裁判を受けた者が原判決によってすでに刑の執行を受けたりしていた場合,刑事補償法(昭和25年1月1日法律第1号。同日施行)に基づき,国に対し,抑留又は拘禁による補償を請求することができます(憲法40条参照)。
   ただし,①身体を拘束されずに起訴されて無罪となった場合,「未決の抑留又は拘禁」を受けていない以上,刑事補償請求権は認められませんし,②抑留又は拘禁を受けたとしても,被疑事実が不起訴となった場合,「無罪の裁判」を受けていない以上,刑事補償請求権は認められません(②につき最高裁大法廷昭和31年12月22日決定)。
(2) 未決勾留は,本刑に算入されることによって,刑事補償の対象としては刑の執行と同視されるべきものとなり,もはや未決勾留としては刑事補償の対象とはなりません(最高裁昭和34年10月29日決定)。
   また,本刑に算入された未決勾留日数については,その刑がいわゆる実刑の場合においてはもとより,執行猶予付きの場合においても,もはや未決勾留としては,刑事補償の対象とはなりません(最高裁昭和55年12月9日決定)。
   これらの取扱いは,未決勾留が刑の執行と同一視される場合,又はその可能性がある場合,未決勾留が本刑に算入されることが利益となり,本刑に算入された未決勾留について,更に刑事補償をすることは,二重に利益を与えることになると解されるからです(最高裁平成6年12月19日決定)。
(3) 抑留又は拘禁による損害が刑事補償による補償額を上回る場合,その抑留又は拘禁が国家機関の故意又は過失に基づくときは,国家賠償法により,その差額を国家賠償により請求できますし,最初から刑事補償によらず国家賠償を請求するということも可能です(平成12年2月3日の衆議院予算委員会における臼井法務大臣の答弁。なお,刑事補償法5条参照)。
(4) 刑訴法の規定による免訴又は公訴棄却の裁判を受けた者は,もし免訴又は公訴棄却の裁判をすべき事由がなかったならば無罪の裁判を受けるべきものと認められる充分な事由があるときは,国に対して,抑留若しくは拘禁による補償又は刑の執行若しくは拘置による補償を請求することができます(刑事補償法25条1項)。

第10 執行猶予の取消し

1 執行猶予の必要的取消し
(1) 以下の場合,刑の執行猶予が必ず取り消されます(刑法26条)。
① 猶予の期間内に更に罪を犯して禁錮以上の刑に処せられ,その刑について執行猶予の言渡しがないとき。
→ 執行猶予判決が確定した後で別罪を犯し,実刑を受けた場合のことです(最高裁昭和54年3月27日決定)。
② 猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられ,その刑について執行猶予の言渡しがないとき。
→ 執行猶予判決が確定する前に別罪を犯し,執行猶予判決が確定した後に実刑を受けた場合のことです(最高裁大法廷昭和42年3月8日決定)。
③ 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられたことが発覚したとき。
→ 執行猶予判決が言い渡される前に別罪を犯し,実刑を受け,執行猶予判決が言い渡された後に実刑を受けた事実が発覚した場合のことです(最高裁昭和56年11月25日決定)。
(2) 別罪の犯行,実刑の言渡し,実刑を受けた事実の発覚という時間の流れの中で,
   1号の取消事由が適用されるのは,執行猶予判決の確定が別罪の犯行前に生じた場合であり,
   2号の取消事由が適用されるのは,執行猶予判決の確定が別罪の犯行後,実刑の言渡し前に生じた場合であり,
   3号の取消事由が適用されるのは,執行猶予判決の確定が実刑の言渡し後,実刑を受けた事実の発覚前に生じた場合です。

2 執行猶予の裁量的取消し
(1) 以下の場合,刑の執行猶予が取り消されることがあります(刑法26条の2)。
① 猶予の期間内に更に罪を犯し,罰金に処せられたとき。
② 刑法25条の2第1項の規定により保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守せず,その情状が重いとき。
③ 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられ,その執行を猶予されたことが発覚したとき。
(2) 「その執行を猶予されたことが発覚したとき。」(刑法26条の2第3号)とは,検察官において,新たに執行猶予を言い渡した裁判に対し上訴してこれを是正するみちがとざされたのちに,同条同号所定の執行猶予の前科の存在を覚知したことをいい,検察官がその事実をすでに覚知しながら,上訴申立をすることなく,執行猶予の言渡を確定させたときは,検察官はその取消請求権を失います(最高裁昭和53年11月22日決定)。
(3) 保護観察所の長は,保護観察付執行猶予者について,刑法26条の2第2号の規定により刑の執行猶予の言渡しを取り消すべきものと認めるとき(=遵守事項を遵守せず,その情状が重いとき)は,刑訴法349条1項に規定する地方裁判所,家庭裁判所又は簡易裁判所(=刑の言渡しを受けた者の現在地又は最後の住所地を管轄する地方裁判所,家庭裁判所又は簡易裁判所)に対応する検察庁の検察官に対し,書面で,同条2項に規定する申出をしなければなりません(更生保護法79条)。
(4) 刑法26条の2第2号の規定による執行猶予の取消しの場合,猶予の言渡しを受けた者の請求があるときは,口頭弁論を経る必要があります(刑訴法349条の2第2項)し,弁護人を選任することができます(刑訴法349条の2第3項)。
1(1) 被害者側の交通事故(検察審査会を含む。)の初回の面談相談は無料であり,債務整理,相続,情報公開請求その他の面談相談は30分3000円(税込み)ですし,交通事故については,無料の電話相談もやっています(事件受任の可能性があるものに限ります。)
(2) 相談予約の電話番号は「お問い合わせ」に載せています。

2 予約がある場合の相談時間は平日の午後2時から午後8時までですが,事務局の残業にならないようにするために問い合わせの電話は午後7時30分までにしてほしいですし,私が自分で電話に出るのは午後6時頃までです。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。